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市議が市議を名誉毀損で訴える──東京・東村山市

「前職を問題にする風潮が拡大しないようにしたい」

渋井 哲也(2008-05-09 13:30)
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 市議が市議を「名誉毀損」で訴える──。そんな前代未聞な珍事が東京・東村山市で起きている。争いの当事者となっている市議は、まず、市議会内で「辞職勧告を求める請願」を出し合い(いずれも不採択)、その「請願」の内容やメディアを通じてのお互いの批判内容について、名誉毀損で訴え合う始末。対立する少数会派同士の「全面戦争」の様相を呈している。

薄井市議が矢野・朝木市議を相手に提訴

名誉毀損の訴えを起こした薄井市議(撮影:渋井哲也)
 対立する一方の当事者は薄井政美市議(会派・市民のチカラ)。もう一方は、矢野穂積市議と朝木直子市議の2人(会派・草の根市民)。

 薄井市議は4月、矢野・朝木の両市議を相手取って、東京地裁八王子支部に提訴した。「東村山市民新聞」などで名誉を毀損された、という理由で、1020万円の損害賠償と謝罪広告を求めている。

 訴状によると、矢野市議と朝木市議の2人は、紙の『東村山市民新聞』(発行人・矢野市議、編集人・朝木市議)において、「薄井『超セクハラ市議』の登場は有権者にも責任!」などの見出しで、薄井市議に関して「とんでもない人物が『当選』している」「単なる『風俗マニア』、立候補の資格すらなく、辞職すべき」などと記している。

 また、両市議が発行・編集する同紙と同名のウェブサイトでも、「これじゃまるで『エロ・ライター』!薄井政美特集」や、「『薄井セクハラ問題』について」などの記事を掲載。他に、違法行為や犯罪を行っているとした内容の記事も載せた。

 さらに、矢野市議が監事をつとめる「NPO法人多摩レイクサイドFM」の中の番組、「ニュースワイド多摩」のなかで、アシスタントパーソナリティに『東村山市民新聞』を読ませてたうえで、矢野市議自らが解説をして、薄井市議の名誉を毀損した、としている。この番組は矢野市議がチーフプロデューサー、朝木市議が番組制作部長を務めている。

対立は1年前、薄井市議の当選時から

 薄井市議と、矢野・朝木の両市議の対立は、2007年4月、薄井市議の当選直後にさかのぼる。

 薄井市議は1989年に毎日新聞社に入社。その後、内外タイムズ社、クリエイターズカンパニーコネクションを経て、07年3月に退職。同年4月 22日に、東村山市議会議員選挙で初当選した。このクリエイターズ社に勤務していた際、風俗動画サイトに出演し、コメントしていた。

 この「風俗とのかかわり」を、矢野・朝木両市議が問題視し、『東村山市民新聞』のウェブ・紙で薄井市議を批判したことが発端だった。

 2007年6月、東村山市民から市議会に対し、薄井市議の「議員辞職勧告の請願」が2本提出された。市民と議会の橋渡し役をする「紹介議員」には、朝木市議がついた。1本は、市議当選後もアダルト動画サイトに実名で登場してセクハラ発言を繰り返している、という理由(6月13日付)。もう1本は、薄井市議が選挙公報に「毎日新聞記者などを経て前職は出版社社員」と載せた点について、「風俗レポーターだったことを隠した」経歴詐称という理由だ(6月19日付)。

 朝木市議は、これだけでなく、「人権侵害申し立て」も市の審議会に提出した。薄井市議が出演サイトでセクハラ発言を繰り返しているとして、「市男女共同参画苦情等申出書」を出していたのだ。

薄井市議への辞職勧告請願は不採択

 こうした動きに対して、「職業差別を許しません!」というウェブサイトができ、薄井市議を支援する動きが広がった。『東村山市民新聞』は「職業差別というのは論点のすり替え」と反論したが、結局、同年7月に開かれた同市議会政策総務委員会は、薄井市議への辞職勧告請願を「不採択」とした。

 「最初に『東村山市民新聞』に書かれたときから、名誉毀損だと思っていました。しかし朝木市議が、私に対する人権侵害の申し立てをしていたので、その結果を待っていました」

 と薄井市議はいう。

人権侵害申し立ても棄却

 「市男女共同参画苦情等申出書」を受け取った市(2007年12月27日)の下した結論はこうだ。

 「申出人(朝木市議)は、相手方(薄井市議)から直接性的言動による嫌がらせを受けておらず、掲示物等により職場環境を不快で差別的なものにされているという事実はない」

 「対象サイトについては、相手方本人が発信しているものではなく、…(中略)…表現の自由がある中で、その内容について市が規制することはできない。また、動画に出演している期間は、相手方は、サイトを運営している企業の契約社員であり、申出人が問題としている発言は当該企業の業務として行っているものであり……」

 要するに市は薄井市議の辞職勧告決議などをする必要はないと判断した。

矢野・朝木市議への辞職勧告請願を巡って

辞職勧告請願を審議し、不採択とした東村山市議会政策総務委=07年6月(撮影:渋井哲也)
 一方、矢野・朝木市議側に対しては、2007年8月21日、「矢野穂積・朝木直子両市議に対する辞職勧告を求める請願」が市民から提出された。「紹介議員」になったのは薄井市議と、同会派「希望の空」の佐野真和議員の2人。理由は、矢野・朝木2市議が名誉毀損を繰り返しているとの内容。こちらも2008年2月、同市議会議会運営委員会で「不採択」となった。

 前代未聞なのは、薄井氏サイドの請願に対して、矢野・朝木両市議が、「請願内容が名誉毀損。しかも請願内容をインターネットで公表した」として、薄井・佐野両市議と、それだけでなく、請願人となった住民に対してまで、名誉毀損訴訟を起こした点。請求額は530万円。

 請願の内容を発端に、名誉毀損訴訟が行われるのは極めて珍しい。

 「(同訴訟の第3回口頭弁論で)裁判所で会ったときに、矢野さんに『セクハラ市議』という表現をホームページから削除してほしいと言ったんです。すると、『セクハラ市議』はあなたの代名詞だから、と言いました。このとき、改善も謝罪もないと判断しました」(薄井市議)

 だから今回、薄井市議側も、矢野・朝木両市議を訴えたのだ。

 訴訟合戦は泥仕合に映らないのだろうか。薄井市議は、こう語る。

 「たしかに、彼らがすることと同じようなことをすると、一見、泥仕合に見えるかもしれない。しかし、支援者は理解を示している。よく抗議してくれた、という声もある。私個人の名誉を回復したいのもあるが、議員となった後に、前職を問題にする風潮が拡大しないようにしたい」

 注目の第1回口頭弁論は、東京地裁八王子支部で、6月2日13時10分。 

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