親が育てられない赤ちゃんを匿名で受け入れようと熊本市の慈恵病院が、国内初の「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」の運用を始めて一年がたった。
病院の外壁の扉を開けて赤ちゃんを入れると、警報が鳴り看護師らが駆けつけて来るシステムだ。この一年で少なくとも十六人が預けられたことが判明している。赤ちゃんは乳児院や児童養護施設で育てられる。
病院は当初、ポストが設置されているドイツの現状から年一人程度の預け入れを予想していた。設置が話題を呼んで熊本県外からが多いとしても、現実は大幅に上回ったことになる。
設置の狙いとは異なる三歳児とみられる幼児が預けられたこともあった。安易な利用がなかったとまでは言えない。しかしかけがえのない赤ちゃんの命が救えたのも確かだろう。
ただし匿名で預けられるポストでは、赤ちゃんが成長しても自らの出自を知ることはできない。将来大きなトラウマとなる可能性もはらんでいることを忘れてはなるまい。
赤ちゃんポストが浮かび上がらせたのは、望まない妊娠や出産などに不安を持ち、家族にも相談できずに一人で悩む女性の存在だ。ポスト設置を契機に慈恵病院や熊本市では妊娠や育児に関する相談窓口を二十四時間体制としたが、県外からの相談も多かった。熊本だけの問題ではないのは明らかだ。
子育てに悩み育てられない場合に、社会全体で親を支え、子どもを見守る環境の整備も重要になる。
赤ちゃんポストへの賛否の声は今も尽きない。社会全体で議論を深めるために、悩んだ母親が赤ちゃんを預けた背景まで分析できる具体的な情報開示も求められるだろう。