iPodなど携帯音楽プレーヤーを私的録音録画補償金制度の対象とする改正案を文化庁がまとめた。対象には、ハードディスク(HDD)内蔵型の録画機も含まれている。
著作権法では、私的な利用に限り複製を認めている。しかし、デジタル機器は、音や画像を劣化させることなくコピーできる。これによる損害を埋め合わせる必要があるとして私的録音録画補償金制度がつくられた。
補償金は、販売価格に上乗せされ、メーカーが一括して支払っている。
対象機器の拡大については、ここ数年、論議が続いてきた。パソコンや携帯電話を対象から外し、携帯音楽プレーヤーやHDD内蔵型の録画機などに限定することにより、メーカーやユーザーと、著作権者側の対立を収めようということなのだろう。
パソコンと携帯電話は、録音、録画が主たる機能ではないというのが除外理由という。しかし、デジタル機器の機能の融合は進んでおり、大容量の無線通信によって、これがさらに促進されようとしている。
ネットを使いどこにいても自宅のパソコンや録画機のコンテンツをモバイルの端末で取り出すことも可能で、特定の機器を対象に補償を求めるのは、現実とそぐわなくなっている。
これは録音、録画の補償だけではない。日本音楽著作権協会を公正取引委員会が立ち入り調査したが、著作権管理のあり方自体が問われている。
コンテンツのネット配信が急拡大する一方で、著作権侵害の主舞台もネットとなっている。そうした状況に対応した新たな著作権管理の枠組みを模索すべきだろう。その中には、通信事業者と協力して新たな仕組みをつくるということがあってもいいはずだ。
著作権で通信事業者は不利な扱いを受け、放送と同様に扱われれば、一定の負担に応じるという選択肢もあるだろう。番組などの使用にあたり出演者などから個別に許可を受ける必要がなくなり、コンテンツ配信事業を拡大できるからだ。
放送と通信の融合のネックとなっている著作権問題が解決すれば、メディア産業も活性化し、著作権者、メーカーがともに恩恵を受けることになるはずだ。
一方、この問題の余波で、来月から予定されている「ダビング10」のスタートが危ぶまれている。
デジタル放送のコピー回数を10回までに拡大するのがダビング10だ。録画機を補償の対象とするのは、コピー制限の緩和に対する代償の面がある。一方で、緩和が実現したとしても、デジタル放送で日本のような厳しいコピー規制を導入している国も珍しい。
利害が対立しているのはわかるが、ユーザーの利便改善を第一義に考えて対応してもらいたい。
毎日新聞 2008年5月11日 東京朝刊