「廃県置州」は中央集権打破の切り札となるか--。全国の都道府県を廃止し数ブロックの道州に再編する道州制に関する提言が政府・与党や経済界で相次ぎ策定された。積極的だった安倍内閣が交代したことで推進力の低下も指摘されるが、疲弊した官僚機構を根本から改造するための、有力な選択肢だ。導入機運の本格化に備え、「分権本位」を制度設計の基本に据えるよう、認識を共有する好機である。
道州制に関しては、政府が設置した有識者による「ビジョン懇談会」、日本経団連が今春、それぞれ中間的な報告を作成。自民党の道州制推進本部も報告案を大筋でまとめ、近く公表する。いずれも導入の目標年を示し、ビジョン懇は「2018年まで」、自民案は「15年から17年」、日本経団連は「15年」を設定。10年以内の現実的課題として位置づけ、実現に向け基本法制定を求めた。
3報告に共通するのは「地域主権型道州制」(ビジョン懇談会)、「限りなく連邦制に近い」(自民)など、いずれも分権を徹底した自治体として「道州」を定義した点だ。「あたり前ではないか」と思うかもしれないが、政界には中央統制の手段として道州を国の機関とするよう主張する意見が根強くある。分権本位で議論の土俵を整えた点は評価できる。
さらに、国と地方の役割分担についてそれぞれ指標や方針を示し、中央省庁の抜本再編を促した点も重要だ。日本経団連案は道州制に伴い、国家公務員6万8000人が地方に移籍可能と試算した。議論と並行して、国の地方出先機関の見直しを進めることが、実現への環境整備となる。
一方で、新たな課題もある。道州制下の基礎的自治体(市町村)数について自民案は700~1000、日本経団連は1000程度を目標とした。よく言われた「300自治体」よりも多い数字だ。現在の市町村数は1788。合併の進ちょく状況を念頭に置いた判断だろうが、その際の道州と市町村の役割分担をどうするか、より子細に検討する必要がある。
道州の区割りも波乱要因だ。政府の地方制度調査会が06年に提出した答申は3パターンを例示したが、政府のビジョン懇談会では試案公表に慎重論があり、内部検討を続けることにした。区割りをめぐり地域対立が先鋭化するのは好ましくない。制度設計を優先すべきだろう。
もとより、道州制の実現には、強力な政治的意志が必要だ。とりわけ、長く続いた都道府県の枠組み変更には国民の理解が大前提となる。このため、地方でも議論が活発化することが欠かせない。知事が連携して道州制プランを中央に突きつけるような展開が望ましい。「国のかたち」の議論が中央の押しつけであってはならない。
毎日新聞 2008年5月11日 東京朝刊