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大陸の汚職はスケールがちがうぜ!

2006/11/07 12:16

 


 ■車いすのファーストレディ、呉淑珍・台湾総統夫人ら4人が横領などで起訴されたニュースは、中国大手ポータルサイト新浪などで特集が組まれ中国読者の関心は高い。しかし、関心の焦点はというと、「え~っ、たった1480万ニュー台湾㌦(350万元)横領で起訴?」という驚きと、「台湾の司法制度ってすごい!」という感嘆なのである。「阿扁、大陸においでよ、大陸なら問題ない額だ」といった同情の声もあった。


 ■そりゃそうだ。なんせ中国の汚職規模といえば、億元単位(最近話題になった前上海市委書記の陳良宇の不正蓄財は2億7000万元とか)。中国の検察機関が摘発した汚職官僚の数といえば2003年1月から06年8月までで、67505人。海外にげた汚職官僚は少なくとも4000人、持ち出した公金は計3000億から4000億元というから、350万元なんて、子供の万引きかおやつの盗みぐいくらいにしか見えないだろう。
 というわけで、今回のエントリーは人治の国の汚職がどんなものか、過去最大規模の汚職密輸といわれた「遠華事件」を蒸し返してみる。台湾のケースと比べてほしい。


 ■台湾総統夫人の
 横領(使途不明金)なんて可愛いもの
 人治の国の汚職はこんなにすごいぞ!
 遠華密輸事件




 ■頼昌星という人物をご存じだろうか。「遠華密輸事件」の主犯とされる人物で、カナダ・バンクーバーで難民申請をしては却下され続けている彼である。遠華とは頼が総裁を務めた企業集団「遠華集団」からとった名で、密輸事件はアモイを本拠地とするこの貿易会社が舞台となった。1996~99年にかけて少なくとも530億元(800億元という説も1000億元とうい説も)にのぼる官ぐるみの関税脱税があった。


 ■密輸といっても、酒やたばこみたいな可愛いものだけではない。外車(当時中国の輸入自動車関税は高かった)とか石油製品(当時中国で使用される石油の25%がこのルートで国内に入ってきたという噂もある)とか大物をごっそりと密輸、それを軍の艦が護送した?というからスケールが違う。で、役人や軍人を接待する場所として通称「紅楼」と呼ばれた赤茶色の7階建のビルが用意された。その中には選りすぐりの美女があてがわれ、その美女とらんちきパーティにおぼれる党や政府や軍の高官の醜態をこっそり写真に撮って、協力を要請する材料にしていたとか

 ■この結果、99年の発覚以来、千人以上の福建省、アモイ市、中央、軍の高官らがかかわりとして取り調べをうけ、うち20人が死刑または執行猶予付き死刑判決を受けた。事件捜査の指揮をしていた李紀周・公安次官を筆頭にアモイ市党委副書記、アモイ税関長、アモイ副市長などアモイ市幹部(いずれも当時)など、軒並み死刑か執行猶予つき、となった。


 ■一方、主犯の頼は香港パスポートを持っていたので、1999年、家族とともにまんまとバンクーバーに逃げおおせた。


 ■この事件が今、蒸し返されようとしている。頼がこのほど亜洲週刊という香港誌に、この事件と現全国政治協商会議主席・賈慶林とその妻の林幼芳の関連をほのめかせる証言を始めたからだ。

 


 ■賈慶林氏は元福建省党委書記。96年、陳希同事件(江沢民の政治闘争を背景とする汚職事件、陳希同・北京市長が免職、有罪となった)で空白となった北京市長の椅子に、江沢民に引っ張られて座ることになり、今や現党序列4位の上海閥主要メンバー。その妻の林はもと福建省外国貿易局党委書記で北京にきてからは北京の不動産業界の顔役でもある。遠華事件発覚当時、この賈慶林夫妻が事件の黒幕、との噂もあったが、江氏がもみ消した、といわれていた。ちなみに、遠華事件では、軍部が深く関与していたことが暴露され、当時の軍の実力者、劉華清らの力をそぐことになり、江沢民の軍掌握に利用されたという。汚職摘発は政争とセットになっているものなのだ。

 

 ■主要関係者が死刑になり、今、事件の真相を知り、その証拠も持っているのはバンクーバーの頼だけとされている。中国は建前上、頼を中国に引き渡すよう訴えるが、死刑を廃止しているカナダが人道的立場から送還を躊躇し、優秀な弁護士のおかげもあって頼はまだ送還されずにいる。で、事件はこのまま忘れさられようとしていた。



 ■しかし今、これまで沈黙を守っていた頼氏は突然、態度を変えたのだった。必ずしも、核心に触れるものではないが、頼はだいたい、つぎのようなことを言った。

 

 ■「北京高層部(政治中枢部)や党中央規律委員会に私と中国共産党指導者との関係および彼らとの交流に関する資料や手がかりを提供したい。その交流相手の中に高官や有名人もいる」
 「賈慶林が福建のトップにいたとき、私と賈慶林はしばしば顔を合わる仲だった。賈慶林が直接自分から金を受け取ることはないが、贈り物はいつも受け取っており、いずれも好い物ばかりだった」
 「賈慶林の妻は自分のことも遠華集団のことも知らないとしているが、ありえない。自分はかつて、彼女とビジネスパートナーの商売を手伝い、彼女に感謝されたことがある」
 「賈慶林夫妻とマカオ商人、中国政治協商経済委員会の顔延齢副主任は関係が密接で、1986年以後、恵海旅行サービス会社を設立し、マカオ旅行代行業務を独占し、結構かせいだ」



 ■「賈慶林の元秘書で現在の北京市海淀区書記の譚維克氏を良く知っている。具体的なことは、中央規律検査委員会に話す」
 「賈慶林の元運転手、丁金条とも交流があった」
 「中国の官員はみな金好き、女好き」
 「私は多くのことを知っている。私が話せば、多少の官員が辞職せねばならないだろう。しかし中央規律検査委員会には捜査する度胸ははないと思う」などなど。



 ■しかし、なぜ今頃、6年以上も沈黙を守ってきたのに頼はこんなことを言い出す気になったのか。
 彼はこうもいっている。


 ■ 「もともと友達を売ることは自分の原則に反する。私は出来る限り友達の秘密をまもり、彼らを保護してきた。しかし最後には友達なんてものはないのだと気がついた。私が秘密を守ってきてやった友達が出世し金持ちになっても、彼らは頼昌星から電話がきたときくと、すぐ切ってしまう」
 


 ■思うに頼氏は時代が変わったことに焦りを覚えているのだ。江沢民時代は沈黙を守ることが、自分の身の安全を守るカードであった。彼が秘密を守る変わりに、権力者たちは彼のことをカナダにほうっておいて忘れようとした。しかし、胡錦濤にこのカードはきかない。今年春に頼氏が中国に送還されるという可能性が一時浮上したが、胡氏にすれば、頼氏が帰国しようが秘密を暴露しようが自分の身や勢力にはまったく悪影響がおよばないのだ。



 ■おまけに胡錦濤は汚職への姿勢の厳しい姿勢をみせ、江沢民派上海閥と闘争中。賈慶林は政敵なのである。頼の送還話も賈慶林江沢民派への圧力のつもりで胡錦濤政権がカナダ政府に働きかけたのだろう。それで頼は、大事に隠しもっていた切り札を今切らねば、くさってしまう、と判断した?司法取引でもできないか、と考えた?


 ■胡錦濤政権は、賈慶林と関係の深い北京市副市長が関与したとされる五輪建設汚職摘発や、福建省のスポーツクジがらみの汚職摘発も行ってきたことはすでに拙ブログでも紹介した。

http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/11904/



 ■そこでちょっと腕ならしをして見せて、陳良宇・前上海市党委書記をみごとにつぶし、江沢民がもはや影響力のないことを江沢民派上海閥に知らしめた。もちろん、秋の6中総会(第16期中央委員会第6回総会)で当然でると思われた陳良宇氏の政治局員除名や党籍除籍の話が出なかったことをみれば、多少の上海閥の巻き返しはあったにしても、これは最後のあがきのたぐいでは?
 

 ■賈慶林が10月半ばからメディア露出度が急激に増え、外遊や外国の賓客との会見なども目立っているので、胡錦濤との間になんらかの妥協があって、賈慶林の身の安全は約束されたのではないか(次の人事で消えるとしても汚職摘発はないのでは)という観測もあるが、一方でロイターなどは十月下旬、党中央規律検査委員会が300人の捜査態勢で北京に集合しており、ターゲットは賈慶林氏と報じた。実際に、賈慶林まで捜査の手がおよぶかどうかは別にして、もはや賈慶林に政治的影響力はなく、たとえ頼氏が賈慶林に電話をいれて、自分の身柄の安全を確保しようとしても、賈慶林はあわてて電話を切るしかないのだ。(盗聴されているしね)。



 ■今後の展開はなかなか予測しがたいのだが、賈慶林氏が「遠華事件」がらみで摘発される可能性は小さいのではないか、というのが現地事情通の見方である。なぜなら賈氏に捜査がおよぶと、今の五輪開催責任者らも総入れ替えになるだろうし、江沢民の息子らにも累がおよび収拾がつかない。また、裏切り者、曽慶紅氏は来年の党大会準備委員会の責任者で、党序列ナンバー2への出世が約束されている、という噂があり、これで賈慶林や江沢民の息子をパクったら、曽慶紅もあまりに寝覚めがわるいだろう、と。
 

 ■で、来年の党大会で、曽慶紅をのぞく上海閥(江沢民派)は静かに消えていただくということで、手打ち、というのが、中国らしいやり方なのだ。



 ■ちなみに頼のような、ちんぴらの情報など、胡錦濤はもともと必要としていないのではないだろうか。胡錦濤が調べる気になれば、いくらでも証拠はあつまる。だから、彼の命がどうなるかは、想像つかない。江沢民は「頼を死刑にしないから返せ」と建前上主張していたが、胡錦濤はどうなのか、そういえばまだ聞いていない。死刑になるとわかっているのに、送還するような無体なまねはカナダ政府にはできまいから、結局、死刑は免れるのだろう。ただ「遠華事件」では少なくとも7人は死刑が執行されているというのに、主犯の頼の命が助かる、というのは、世の中まったくもって不公平である。



 ■で、個人的には、頼には党大会後にでも、もてる秘密のすべてをぶちこんだ暴露本を出し(うわさではすでに執筆開始とか)、すでに隠遁生活に入っていた関与の政府高官らの実名をさらし、それで稼いだ印税をそっくり、貧困地域の子供たちにでも寄付したあと、出家でもして、「遠華事件」に連座して死刑になった昔の仲間を弔ってほしい、と思う。

 

 ■総統夫人といえど、検察がやる、といえば起訴でき、公平な裁判がおこなわれ、真実が国民にしらされる法治国家とちがい、水面下の駆け引きと妥協の果に事件の真相がほうむりさられてしまう人治の国では、せいぜいこういう結末にしかならない。(敬称略)

 

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仁義なき、中南海

2006/10/06 21:58

 

 ■きょうは何の日?中秋の名月?いえいえ、30年前のこの日、10月6日、文化大革命の四人組逮捕の日ですがな。で、なんか書かねばと思ったのだが、中国国内ではほとんど無視されている過去のお話より今げんざい中国で進行している政変の方に目がいってしまう。というわけで、今日は2度目のエントリー、上海汚職事件をおさらいするのだ。いいのだ、ブログは書くネタの思いついたときにすばやく更新すべし。(滞ることも多いから)。
 


 ■ヤツもワルよのぉ
 引導を渡したのは曽慶紅
 仁義なき戦いを中秋の名月が照らすよ



 ■さて、香港報道などを見渡すと上海政変の内幕がだいたい明るみになったようだ。つまり、黒幕は江沢民の懐刀こと曽慶紅(序列5)で、彼が同じく江沢民にかわいがられていた黄菊(序列6)、賈慶林(序列4)排除という目的、つまり「上海組」乗っ取りのため、胡錦濤の権力固めに一枚かんだ、というのだ。曽慶紅といえば、楊尚昆・元国家主席をつぶし、陳希同事件のシナリオをかくなど、政敵を陥れるような汚い仕事をもっぱら請け負い、江沢民の権力基盤強化に一役買った陰謀家。彼が、こんど胡錦濤のために汚い仕事を引き受けた?
きっと、次ぎの人事で周永康(公安相で曽慶紅の女婿)が政治局常務委入りすることなどが条件かな(妄想)。とすると、上海組江沢民閥は解体したが、太子党曽慶紅閥が生まれるのかな(妄想)?

 ■香港誌・争鳴が、陳良宇前上海市委書記解任の内幕をこんな風に報じている。
 中央規律検査委員会が陳氏の親族が百億元にのぼる不正経済活動を行った証拠を示した9月23日午後、中共指導部が江沢民にその事実を報告したとき、江沢民は何も言わなかったという。その夜、政治局常務委員9人が、陳氏の処分をめぐって投票を行い、六票が罷免賛成、三票が棄権。この棄権票は黄菊、賈慶林、李長春(序列8)だった。同じ上海閥でも、呉邦国全国人民代表大会常務委員長(序列2)と曽慶紅・副主席は賛成票を投じたのだった。

 ■その翌日、曽慶紅が政治局を代表して陳氏の処分決定を宣言したという。で25日、新華社が報道したのだった。しかし李長春が27日、中央宣伝部を通じて、派手に報道するなと各メディアに通達。同誌よると、これか江沢民派閥の最後の抵抗だったらしい。陳氏解任報道は、胡錦濤の功績をたたえるようなものだからだ。


 ■さらに、陳氏が罷免された翌日の26日、胡錦濤は中山服を着込み、取り巻きの軍幹部、司令官を引き連れ、軍事装備会議に出席し、江沢民閥との闘争に勝利したことを誇示。中国共産党中央および中央軍事委員会は大軍区、集団区の大幅な人事異動(116号命令)を出した。これは1996年以来の軍の一大人員入れ替えで、胡錦濤の軍掌握を決定的にした。

 ■現在、31省・自治区、直轄市中、19地域のトップに胡錦濤派閥(団派)が埋め込まれている。上海市(韓正書記)▽江蘇省(李源潮書記)▽広東省(黄華華省長、書記は上海閥に近い張徳江)▽湖南省(周強代理省長、こないだ青共団中央書記から転出したばかり)▽青海省(宋秀岩省長)▽遼寧省(李克強書記)などなど。
 ちなみに胡錦濤派閥でないのは、北京、天津、吉林、浙江、江西、山東、湖北、山東、海南、貴州、雲南、陝西、甘粛の12地域。来年上半期までにこの勢力図がどのくらい塗り替えられるかが、注目される。(以上争鳴より)

 ■私は別の事情通から、江沢民氏に陳氏を切るように説得したのは曽慶紅その人だ、と聞いたことがある。裏はとれないが、曽氏なら江沢民の汚職の証拠もばっちり握っているし、ノーとはいえない。年老い、力を失った組長の黄昏れた肩をぽんぽんと叩きながら、引退の誓文に血判を押させる若頭?「この恩知らずめ、あれほどかわいがってやったのに」と江沢民が歯ぎしりしたかどうかはしらないが、ヤクザ映画のワンシーンみたいである。

 ■あの文革が毛沢東の劉少奇け落としを目的とした政治闘争にはじまり、毛沢東跡目相続抗争の四人組逮捕に終わったことはご承知のとおり。中国はつねに政治闘争が時代を動かしてきたのだ。この上海汚職事件だって、中国の時代を塗り替え、未来を換えていくのだと思うと、感慨深い。しかし、とりあえず上海閥は解体したとしても、曽慶紅が、このままおとなしく胡錦濤の右腕の地位で甘んじるのか。「仁義なき戦い」に限らず、ヤクザ映画はかならず、続編があるものなので、なんか期待してしまう。

 ■というわけで、裏切りと欲望うずまく中南海を、すがすがしい名月が照らし出す、北京の秋。なんか、急に上海がにたべたくなったのである。(意味不明)

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上海の結構でっかい花火!

2006/09/28 20:46

 

 ■盛者必衰のことわりか

  上海閥の落日近し

  上海経済へのダメージは?


 

 

 ■少々タイムラグがあったので、もう語り尽くされているだろうか。上海閥のプリンスと呼ばれていた元上海市委書記、陳良宇の解任事件である。外資系企業の中にも、ついに上海閥の栄華も落日のときがきたと感慨にふける方、上海市当局と浅からぬ関係があり少々びびっている向きがおられよう。何を隠そう、産経新聞とて中国総局開局までの交渉は上海閥が相手であり少なからぬ縁がある。だから私の業務留学先も上海だった。というわけでなんかヒトゴトでない気がする今回の事件。胡錦濤の追撃の手はどこまで伸びるのか。

 

 ■胡錦濤政権が来年の第17回党大会前の権力完全掌握に向けて、江沢民前主席を中心とした上海閥一掃に動き始めている。これまで小さい花火はぽんぽん上がっていたことは当ブログでも紹介ずみだが、陳良宇という大物が、6中総会(10月8から11日)前、国慶節前に片づけられるとは多くの人の想定外ではないかったか。この事件は、胡錦濤、あなどるべからず、と上海閥と連なる人々や江沢民によって今の地位についた地方トップの面々の肝胆寒からしめたことだろう。

 

 ■ここで上海閥とはなんぞや、ということをちょっとおさらい。1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚したのち、ときの最高権力者、鄧小平はその後継者に、上海市党委だった江沢民が大抜擢されたのだった。中央の権力とはまったく縁のなかった江沢民は北京にきたころは周囲からなめられ、かなり悔しい思いをしたそうだ。しかしなんと言っても党中央のトップ。人事権をふるに使い、当時上海市委副書記だった曽慶紅やら、上海市党委書記呉邦国やら黄菊やらをばんばん抜擢し、中央政治の中に上海出身者による派閥を作った。

 

 ■この派閥をより強固なものとする事件が、第15回党大会を二年後に控えた1995年に発生した「陳希同事件」である。権力を拡大する上海閥に対し、当時「北京王国」を標榜し、江沢民と真っ向から対立していた北京市党委書記、陳希同氏を汚職を理由に解任に追い込み、当時の福建省党委書記賈慶林を後釜に据えたのだった。この「陳希同事件」のドラマチックな内幕は小説「天怒」(陳放著、リベロ刊)に詳しく、中国政治の謀略のものすごさを理解するためにも一読をオススメする。

 ■10年あまりにおよぶ江沢民の治世の間、彼が任命した地方トップも含めれば上海閥の層は厚く広範だ。これを今、胡錦濤政権が同じやり方で平らげ、自分の派閥、つまり共青団(共産主義青年団)閥を拡大しているまっ最中である。そして、かつて江沢民が陳希同をつぶしたように、同じ汚職問題で陳良宇を排除、後釜に共青団閥の韓正・上海市長を据えることに成功した。陳良宇は中国の昇竜「上海王国」に君臨する王様で、胡錦濤が推進する経済抑制政策や内外資企業統一税導入などの政策にも公然と抵抗するなど、胡錦濤の目の上のたんこぶでもあった。

 

 ■今回の汚職というのは、市当局の公的基金(社会保障基金、32億元)をコネのある大企業に不正融資したというもので、中国人の特権階級なら誰でもやっていることである。そんなありきたりの腐敗で、陳良宇のような大物が失脚したということは、江沢民が彼をかばいきれなかったということであり、すでに江沢民の政治的影響力が失墜していることの証でもある。

 ■実際、胡錦濤が8月に開始した「江沢民文選学習キャンペーン」は、江沢民が「過去の人」であると、周囲に公言したものと同じと、受け取られている。軍関係筋に聞くところによると、江沢民は重い病(がん?)を患い、寧波の普陀山など国内の有名寺院巡りに明け暮れているとか。彼は自分の派閥を守るどころか、今や自分の一族が汚職で捕まらないように、神仏に祈っているところではないか。


 ■ちなみに曽慶紅江沢民と袂をわかち胡錦濤との協力体制に転じている(前軍関係筋、香港筋)。沈む船からネズミは逃げ出すのだ。

 

 ■さて、この上海閥がどこまで排除されるかが、今後のみどころである。上海市の陳良宇の子飼い部下らは、一掃されるとの見通し。で、さらに黄菊・政治局常務委員と賈慶林全国政協会議主席が危うい。ふたりとも汚職の証拠を胡錦濤に握られているという。黄菊は病気説を流しフェードアウトするかにみえたが、彼の妻、余慧文は、この陳良宇事件との関連で目下取り調べを受けているそうで、黄菊の責任が表面化する可能性はけっこう大きそう。


 ■さらに気になるのは、余慧文から江棉恒、つまり江沢民の長男の名前が出てこないとも限らないという点だ。香港雑誌「開放」は、大胆にも胡錦濤の次ぎの目標は「江棉恒」、と予測している。

 

 ■覚えておられるだろうか、2003年5月の中国銀行香港法人の総裁、劉金宝が上海大富豪の周正毅に巨額の不正融資をしたとして解任された、のちに周正毅事件とよばれたあの事件を。あのとき、江沢民の力がまだつよく、結局、周正毅は株価操作とかちゃちい罪で懲役3年の判決を受け、事件はうやむやのまま終わってしまった。

 ■しかし、「開放」によればすでにあのとき、捜査は江棉恒にも及んでいたのだという。中国科学院副院長でもある江棉恒は、その地位につく前から上海で投資会社を経営、表向き国営企業だが事実上、江棉恒の私有財産とされ、上海経済界では大ボス扱いだったという。その江棉恒は台湾実業家の王永慶と合資で宏力微電子公司を設立(2000年、総投資額64億元)。このときの資金は江棉恒が、当時中国建設銀行頭取だった王雪氷(汚職で失脚)、そして中国銀行上海支店長だった劉金宝(汚職で失脚)にコネで融資させた金だったという。


 ■さらに、周正毅事件が表面化するきっかけとなった上海市静安区・普陀区の再開発問題でも、周正毅に問題の土地の使用権を地区当局に働きかけて与えたのは、上海政府と経済界に強い影響力を発揮する江棉恒、江棉康兄弟という。周正毅は江沢民の二人の息子に一生懸命貢ぎ物をして、膨大な土地の再開発権を得た。周正毅事件は、この再開発で立ち退きを迫られた住民が中央政府に告発文を出したことにより明るみになったとされている。(開放の記事を、軍事関係筋などで裏付け)


 ■果たして、この上海閥掃討作戦は、江沢民ファミリーにまで及ぶのか。はっきりいって中国の特権階級ほぼ全員がすねに傷持つ身なので、やりすぎは地方政府のつよい反発を招きかねない。個人的には、ちょっとムリ目?え、やるの?と思うのだが、読者のみなさんのご意見は?

 

 ■ところで、今回の事件をどうせ、他国の政争でしょ、日本には関係ないもん、と言う方があるのであれば、それはちょっと違うと思う。胡錦濤VS上海閥は、単なる政治上の面だけでなく、新左派VS自由主義という経済政策の対決でもある。ご存じのように江沢民は改革開放をすごい勢いで推進し、上海への外資導入を集中させ、めざましいGDPの伸びを実現してきた。その結果、ものすごい貧富と農村経済の遅れによる社会不安が生まれた。

 ■今、中国経済は岐路にたっており、江沢民路線を引き継いで、中国市場の開放を推進して自由競争を肯定してゆくべきだという「自由主義派」と、経済抑制政策により経済成長に突っ走る都市にブレーキをかけると同時に、国内企業保護や農村の社会保障制度の充実など優先させるべきだという「新左派主義」の二つの理論がせめぎあっている。

 

 ■胡錦濤は新左派主義よりの中道路線で改革開放の方針は堅持するようだが、それでも経済過熱を抑制し、外資からしっかり税金をとって、農村建設に還元しようという考えだ。上海閥はこれに抵抗し、外資優遇政策をつづけ、開放経済の推進によって成長のエンジンを回し続けねばならない、としていた。

今回の上海政変で、陳良宇はじめ上海閥幹部が総入れ替えになり、胡錦濤に忠実な上海政権ができれば、上海経済政策はやはり変わるのでは?

 

 ■今のところ、株価にあまり影響はでていないが、今後は少なくとも今までのように上海が頭ひとつ抜けて優遇される状況は変わってゆくかもしれない。たとえば、上海ですでに始動しているプロジェクトにストップがかかったり、市が独自にみとめてきた外資系企業への優遇政策も引き締められる可能性があるかも。がんがん上海(グレート上海を含む)に投資してきた日系企業も少なからぬ戦略調整に迫られるのでは?

 

 ■いや、これは私の妄想ですけどね。でも中国では政治と経済は日本以上にダイレクトにつながっていることは間違いない。いずれにしても、みなさん、中国ですから。気をひきしめていきましょう♡

 

 

参考までに以前のエントリー

http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/17799/

 


http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/11904/

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