ここから本文エリア

現在位置:asahi.com>関西>ニュース> 記事

胡錦濤主席、厳戒の奈良訪問 日中交流たどる

2008年05月10日

 来日中の中国の胡錦濤(フー・チンタオ)・国家主席は10日、奈良県を訪れた。中国とゆかりが深い古寺などを視察。日中の歴史的なつながりの深さを再確認することで、未来志向の友好を演出した形だ。一方、来県の同時刻ごろには、僧侶有志によるチベット犠牲者の追悼法要も営まれた。県警は警官3千人で厳戒態勢を敷いた。胡主席は同日午後、大阪(伊丹)空港から帰国する。

写真法隆寺を訪れた中国の胡錦濤国家主席=10日午前、奈良県斑鳩町、森井英二郎撮影
写真鑑真和上座像前で松浦長老から説明を聞く胡錦濤・中国国家主席ら=10日午前、奈良市五条町の唐招提寺、代表撮影

     ◇

 同県斑鳩町の法隆寺。南大門前で、大野玄妙管長や荒井正吾知事が胡主席を出迎えた。飛鳥時代に建てられた世界最古の木造建築の金堂や、五重塔などを見学した。

 「この寺を建立した聖徳太子は1400年前の中国文化を学び、日本を平和にしたいとの願いを込め十七条憲法を作りました」(大野管長)

 「この寺に残されているものは両国交流の結晶ですね」(胡主席)

 説明に胡主席は大きくうなずいた。大野管長は「主席は穏やかな方。境内の建物の配置などについて事前に勉強されているようだった」と感想を話した。

 その後一行は、奈良市の唐招提寺へ。胡主席は、案内の松浦俊海長老が雨にぬれないように自ら傘を差した。8世紀半ば、唐から苦難の末に日本に渡り同寺を開いた鑑真和上の座像に拝礼。胡主席は友好のしるしとして同寺に遣唐使船の模型を贈った。

 県には鑑真和上の銅製の胸像を贈った。荒井知事と会談した胡主席は「奈良は両国文化交流のシンボル的な存在。重要なのは両国が鑑真の精神を受け継いで友好を推進すること。今回の訪問は成功したと思う」と述べた。

     ◇

 胡主席一行が唐招提寺を訪れていた午前11時、東に約5キロ離れた奈良市内の古寺の十輪院でチベット犠牲者の追悼法要が営まれた。呼びかけたのは同寺の橋本純信住職(59)。今月5日に追悼法要を開く新聞広告を出し、趣旨に賛同する僧侶を募った。急な開催となったが、一般の参拝者も加わり、約15人が本堂で読経し冥福を祈った。

 同市などの19寺でつくる「南都二六会」の会長。大学と大学院でチベット仏教を専攻するなどチベットに関心が深い。4月末、宗派を超えた若手僧侶約150人が東大寺に集まった際にもチベット問題の早期解決を訴えた。

 橋本住職は「同じ仏教徒として、チベットの仏教徒を弾圧する国家の主席を日本の寺院が受け入れたのはおかしい」と話す。今月初めには、訪問先の法隆寺と唐招提寺に、抗議の意思を表明するよう求める手紙も送った。

     ◇

 県警はこの日、全警察官の6割の約1500人を配置。さらに25府県から約1500人の応援も受けた。国道24号などの幹線道路は、一般車両の出入りを規制して信号はすべて「青」に。法隆寺近くの主婦(67)は「姿は全く見えなかった。以前、皇太子さま、雅子さまが来た時は境内で見られたのに」とカメラを手に残念そうだった。

 法隆寺では南大門周辺だけで約300人以上が警戒にあたった。早朝から参拝者には手荷物検査を実施。胡主席の到着50分前の午前9時には境内は立ち入り禁止となった。愛知県豊田市の会社員男性(30)は「昼ごろまで参拝できないと言われた。観光案内所もまだ開いてないしどうしようか」と困惑気味に話した。唐招提寺も午前8時半からの拝観が一時禁止された。

 一方、法隆寺や唐招提寺そばでは「フリー、チベット」と叫んだり、チベットの旗をかざしたりした人もいた。警察官が制止し、任意で事情を聴く姿も見られた。

PR情報

このページのトップに戻る