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NIKKEI NET

社説2 気になる米の保護主義傾向(5/10)

 米国では自由貿易は汚い言葉になってしまったのか。米国の大統領選挙戦を見ていると、そんな気にもさせられる。民主党の2人の大統領候補が競い合うように、自由貿易協定(FTA)に対する批判をエスカレートさせているからだ。

 FTAたたきは選挙戦の間だけとの見方もあるが、世界一の経済大国の大統領候補の口から出れば、影響も小さくない。大統領候補は米国内の保護主義ムードに乗るのでなく、FTAやグローバル化がもたらす利益について堂々と語るべきだ。

 オバマ、クリントン両候補が争う民主党の大統領候補者選びは接戦が続いている。6日実施したインディアナ、ノースカロライナ両州の予備選は1勝1敗と引き分けになり、決着は持ち越しとなった。選挙戦の長期化も両候補のFTA批判に拍車をかける要因になっている。

 FTAに批判的な姿勢を取る背景には「自由貿易が賃金の停滞や雇用の不安定化をもたらしている」との見方が米国民の間で広がっていることがある。民主党の支持基盤である労働組合員の間ではその傾向がとくに顕著だ。両候補ともFTAに厳しい立場を取ることで支持基盤固めに動いている。

 両候補はともに1994年にスタートした北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉を提唱。クリントン候補は当選したら新たなFTA交渉は一時停止するとしている。

 一方、共和党の大統領候補指名が確定したマケイン氏は自由貿易を堅持し、FTAを推進する考えを表明している。

 こうした選挙戦の動きは米議会の動向とも共鳴し合っている。ブッシュ政権はコロンビアとのFTAの承認を議会に求めたが、議会多数派の民主党は採決を先送りしている。

 情報通信関連の仕事をインドへ外部委託する動きなど、グローバル化の進展が雇用の不安定化につながっている面は確かにある。だが、こうした問題には新たな技能の習得後押しなど支援策強化で対応すべきだ。

 米国が保護主義へ向かえば、世界でも自由貿易支持の波が引く恐れがある。米国の政治家には、貿易拡大がもたらす利益を国民に説くなど、指導力の発揮が期待される。

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