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「死刑になりたい」無差別犯罪なぜ

2008年05月10日03時01分

 「死刑になりたい」。こんな動機で、見知らぬ人を襲う容疑者が相次いでいる。茨城県で3月に男が駅周辺で8人を殺傷した事件、鹿児島県で4月に自衛官がタクシー運転手を殺した事件……。犯罪を抑える狙いの死刑制度が、逆に凶行を誘発していることになるが、それはなぜか。識者の見方も割れる。(本山秀樹)

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 茨城県土浦市のJR荒川沖駅の8人殺傷事件。逮捕された無職金川真大容疑者(24)は、調べに対して「自殺するのは痛いから嫌だった。複数殺せば死刑になれると思った」と供述したという。鹿児島県姶良(あいら)町のタクシー運転手殺害事件で、陸上自衛隊員の少年(19)も「人を殺して死刑になりたかった」と県警に話したという。

 さらには、2月に東京都新宿区にある神社のトイレでタクシー運転手の頭を金づちで殴ったとして殺人未遂容疑で逮捕された無職の男(31)も、昨年9月に広島・平和記念公園で男性を刺殺したとされる無職男(63)も「死刑になりたい」と動機を語ったとされる。

 いずれも容疑者たちは「死にたいが死にきれなかった」などとも供述したという。特定の人に殺意を抱いたわけではなく、死刑制度を使って間接的に自殺を図ったというわけだ。

 精神医学の世界では、他人の力を借りて自らを死に追いやることを「間接自殺」と呼ぶという。教義で自殺を禁じているキリスト教圏では当てはまるケースが多いが、日本では珍しいとされてきた。

 犯罪精神医学が専門の影山任佐(じんすけ)・東京工業大教授は「『死刑になりたい』との動機が日本で目立つようになったのは、自殺の多さと無関係ではないだろう」と指摘する。

 警察庁の統計では、06年の自殺者は全国で3万2155人。9年連続で3万人を超えている。影山教授は「自殺を願う人は生命を尊重する心に欠ける。だから、他人を巻き添えにした間接自殺が起こり得る」という。

 同教授は「死刑執行や死刑判決が大きく報じられ、『殺せば死ねる』との学習効果で犯行が引き起こされている可能性がある」とも分析。「国として自殺対策に本気で取り組むことが必要だ」と説く。

 一方で、「間接自殺は昔からあった」と言うのは、刑法専攻の椎橋隆幸・中央大教授だ。「警察が公表し、報道されることで、増えているような印象を持つのではないか」と指摘。死刑制度を存続すべきだという立場に立つ椎橋教授は「死刑制度は罪と罰を均衡させ、社会の正義を守る観点で必要だ。死刑が動機の事件が起きたから死刑を廃止すべきだという主張があるなら、乱暴な議論だ」と話す。

 難しいのは、容疑者の死刑願望がどこまで固いものなのかの判断だ。実際、逮捕時には願望を口にしながら、その後の供述が一貫せず、精神鑑定を受ける例も少なくないという。こうした捜査を指揮する立場にある警視庁幹部の一人は「心の病の増加を踏まえた、総合的な刑事政策、精神保健政策が求められているのは間違いない」と言っている。

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