◎金沢−釜山フェリー 埠頭(ふとう)機能の強化が急務に
金沢港と釜山港を結ぶ国際定期フェリー(貨客船)の就航は、日本海の物流が大きく伸
び、金沢港の地位が急上昇している現状を物語る。日本総合研究所によると、金沢港を含む日本海側十一港の過去十年のコンテナ貨物量は年間平均伸び率で12・6%と、全国平均の4・6%を大きく上回っているという。中国やロシアの急成長で、日本海を行き交う物流が大幅に増えているためだが、金沢港にはまだまだ余力があり、貨物の取り扱い量を大きく伸ばすチャンスである。
また、モノだけでなく、ヒトの交流が初めて金沢港に生まれるメリットは極めて大きい
。韓国からの観光客が単純に増えるだけでなく、陸海空の交通網がそろうことで、行きはフェリー、帰りは航空便といった組み合わせが可能になる。そうした相乗効果を最大限に引き出すためにも、海の玄関口となる埠頭機能の強化を急ぎたい。コンテナヤードの拡張や引船の追加配備などはそれなりに進んではいるものの、外国からの旅客を迎える施設は見劣りがする。特に出入国の拠点となる金沢みなと会館の整備は待ったなしである。
金沢港の国際コンテナ便は、現在、週三便の釜山航路と同じく週三便の中国航路、月一
便の北米航路がある。フェリーの就航によって、釜山航路が実質増便となるメリットは大きいが、採算点に乗せるのは簡単なことではない。大阪港―釜山港を結ぶフェリーは週三便でスタートし、黒字化まで三年かかったといわれる。金沢港―釜山港の場合も早急に黒字化のメドをつける必要がある。金沢港を利用する県内企業は三割に満たないと見られるだけに、ポートセールスで官民挙げた取り組みが必要である。
金沢港のコンテナ貨物量は過去十年で三倍に増え、〇七年度は二万七千五百個に達した
。それでも伏木富山港の半分以下、新潟港の四分の一程度に過ぎず、のびしろはある。フェリーはコンテナ便と違って、多種多様な小ロットの荷物を短時間で運ぶことができるなど、荷主の要求にきめ細かくこたえられるメリットもあり、こうした利点を積極的にアピールしていきたい。
◎日中防衛交流 警戒心まで解いてならぬ
日中両国の防衛交流の拡大が首脳会談で合意され、中国側の要請に応じて、海上自衛隊
の護衛艦が北京五輪の開幕前に中国に寄港することになった。「互いに脅威とならない」という日中共同声明の一節を実行に移すものと言えるが、友好交流の名の下で中国の軍事動向に対する警戒心まで解いてはなるまい。
中国の軍事予算の不透明さは、国際社会に疑念と脅威を与えている。しかし、今回の首
脳会談で福田康夫首相が、軍事費の透明性確保を胡錦濤主席に強く訴えた形跡はない。その一方、北京五輪に向けて「開かれた国」をアピールしたい中国の要求を受け入れ、海自艦の六月訪中を共同プレス発表に明記した日本政府の対応は、日中友好の掛け声に引きずられ過ぎている印象が否めない。
防衛当局が交流し、対話を重ねることは、日中間の緊張や相互不信を解消し、両国の安
全保障さらには東アジアの安定化に役立つ。福田首相の対アジア外交重視の姿勢が中国側に歓迎され、昨年十一月に中国海軍の艦船が初めて日本に寄港するなど、日中の防衛交流が再び動き出しているのは好ましいことである。
しかし、友好への気遣いばかりで、相手に言うべきことまで遠慮しては、防衛交流の意
義は薄れ、逆効果にもなりかねない。防衛省のシンクタンクである防衛研究所は三月に公表した「東アジア戦略概観」の中で、「信頼醸成が進展しないまま防衛交流の看板だけが既成事実化され、中国の平和的イメージの宣伝に利用されることも予想される」と警鐘を鳴らしている。こうした警戒心が防衛当局にあって当然である。
昨年、中国海軍の艦船が日本に来た際、海自イージス艦の内部を中国海軍の乗組員らに
視察させることが一時検討されたという。日本の情報管理の甘さに神経をとがらせる米国に配慮して結局見送られたが、日米同盟の象徴ともいえる最新鋭艦に中国軍を招き入れるのは、いかにもお人良しな対応と言わざるを得ない。軍事のイロハを忘れたような気の緩んだ防衛交流であってはならない。