ロシアの新体制がスタートした。ソ連崩壊後の第三代大統領には、「プーチン路線の継承」を唱えて三月の大統領選で圧勝したメドベージェフ第一副首相が就任し、プーチン前大統領を首相に指名した。首相就任は八日、下院で承認された。
新旧大統領が協力して政権を担う、極めて異例な「双頭体制」の誕生である。
メドベージェフ氏は四十二歳の若さで、戦後のソ連・ロシアの国家元首としては最年少となる。実権は当面、首相として強い権力を維持するとみられるプーチン氏が握ることになりそうだ。新大統領にとって、プーチン氏との権力調整が最大の焦点となろう。
メドベージェフ大統領は就任演説で「市民と経済の自由をさらに発展させることが最重要課題だ」と強調するとともに、法治主義の徹底も訴えた。プーチン氏とは違うリベラル色をにじませた形だ。一方、プーチン氏は「国の発展に向けて選択した路線を一緒に継続することが最も大切だ」と述べ、路線継続を求めた。
プーチン氏は二期八年の大統領任期中、石油など豊富な天然資源を背景に政治的安定と経済成長をもたらし、国民の高い支持を得ている。下院で七割の議席を占める強力な与党「統一ロシア」の党首にも就任し、今後は同党を通じて議会や地方も事実上支配するとみられている。
連続三選を禁じた憲法に従ってプーチン氏が大統領を退任し、側近のメドベージェフ氏を後継指名した背景には、退任後も「院政」を敷いて実質的に政権を支配したいとの思惑が透けて見える。プーチン人気を背景に大統領に当選したメドベージェフ氏は、憲法上は最高指導者でありながら、当面はプーチン氏の影響下にある立場を余儀なくされるのではないか。
「プーチン主導」で船出するとみられる新政権にとって、当面の焦点は内閣や大統領府などの人事だ。新大統領が独自色を打ち出せるかどうかが最初の試練となろう。
外交では、米国のミサイル防衛(MD)計画などをめぐってプーチン政権下で悪化した対欧米関係の改善に今後踏み出せるかどうかが注目される。内政では、経済の急成長に伴う貧富の格差是正や物価高騰への対処も急がれよう。
若いメドベージェフ氏が次第に力を付けた場合、プーチン氏との権力の均衡が崩れる可能性も考えられよう。将来的には両者の対立や主導権をめぐって二重権力に陥る懸念もぬぐい切れない。
ハンセン病の国立療養所・長島愛生園と邑久光明園がある瀬戸内市邑久町の長島と本土を結び「人間回復の橋」と呼ばれる邑久長島大橋が、九日で架橋から二十年を迎える。
一九〇七年に国がハンセン病患者の隔離政策を打ち出し、三一年制定のらい予防法で全患者が隔離の対象とされた。特効薬の開発でハンセン病が完治する病気となった戦後も隔離政策は続いた。架橋は、入所者らの粘り強い運動の成果だった。
この二十年を振り返ると、らい予防法が九六年にようやく廃止された。二〇〇一年には隔離政策の違憲性を認め、国に賠償を命じるハンセン病訴訟熊本地裁判決が出、国は控訴せず原告側と和解した。
だが、橋を渡って外の生活に戻る人は少なく、多くが療養所で暮らしている。長い隔離政策が社会とのつながりを奪った。両園だけでなく、全国の療養所が同じような状況だ。偏見と差別は根強く残る。
高校生や小学生ら多くの若い世代が橋を通り、ハンセン病の歴史や苦悩を学んでいる。同様に社会の一人一人が過去を知り、考えていくことが偏見や差別の解消につながる。
入所者の高齢化と人数の減少で、愛生園や光明園を含め全国の療養所で統廃合や医療の後退が心配されている。方策として療養所で地域住民の診療なども行う構想があるが、現行法では診療対象は入所者に限られる。この壁を取り払い、医療従事者の確保なども盛り込んだ新法制定を目指す動きがある。取り組みを支援したい。
岡山県の昨年のハンセン病に関する県民意識調査では、どのような病気か知っている人は前回〇三年の調査より6ポイント近く減り、44・3%だった。負の歴史を風化させてはならない。
(2008年5月9日掲載)