小泉元首相インタビュー 「総理はつらいよ」2008年05月09日12時35分 小泉元首相が「音楽遍歴」と題する本を日本経済新聞出版社から出す。在任中、オペラを見にいったり、プレスリーを歌ったりした大の音楽好きとして知られている。「音楽と政治」と題して、ひさびさにインタビューした。
本は、子どものころからどんなふうに音楽を聴いてきたかという話から始まり、いたって気楽に語られていく。「自分の好きなように聴け」というのが、小泉スタイルらしい。 遍歴のスタートは? 地元横須賀の公立中学の先生がオーケストラづくりに乗り出し、「小泉君、バイオリンを教えよう」と誘った。「おもちゃの交響曲」が音楽事始め。 だが、小泉氏はバイオリンをやめる。ハイフェッツの演奏する「ロマンス」をレコードで聴く。ああ、自分のへたなこと! 天才にはかなわない、以後、聴くのを専門にしようと思ったとか。 でも、小泉氏は5年半も政権を維持して、意外や意外、政治の天才だったじゃないですか? 「いやいや、天才は政治に向かない。国民とかけ離れちゃう。凡才が政治家になるんですよ」 でも、安倍さんも福田さんも四苦八苦してますよ? 「うんうん、同じ楽譜でも演奏家によって最初の一音から違ってくるからね。政治家も同じことを語っても、音質、音量、抑揚、速さ、遅さで、訴える力が違ってくる」。小泉劇場の自負がのぞく。 小泉さん、「協奏曲」が好きとか。でも小泉政治は不協和音の政治だったのでは? 「いや、国民と協調していたんですよ」。しかし小泉交響曲に酔って外に出たら冷雨だったと思う人もいるだろう。後期高齢者医療は? 「まあ、時間がたてば感情的議論は収まってきますよ」 本の中で、小泉さんは「オペラは愛である。そこに嫉妬(しっと)も憎悪も死もある」「権力も愛の前にはむなしい。ベルディのドン・カルロを聴くといい」と言っている。ワーグナーのローエングリンを聴けば、「人生には訊(き)かないほうがいいこともあるとわかる」とも。 それはどういうこと? 「言わぬが花、というけど、訊かぬが花というのもあるんだよ」とは、音楽遍歴より恋愛遍歴の教訓か。「嘘(うそ)のよさ、嘘の真実というのもある。正義の旗をがんがん振りかざすだけではね」。小泉政治の「嘘」を面白いと見るか、不実と見るか。 ミュージカル「ラ・マンチャの男」に励まされた。郵政改革のとき、遍歴の騎士ドン・キホーテの主題歌の「見果てぬ夢」をくちずさんだ。「夢は実りがたく、敵はあまたなりとも、胸に悲しみを秘めて、我は勇みて行かん」。小泉さん、信長のつもりかと思ったらドン・キホーテだったらしい。 このごろどう過ごしています? 「本読んだりテレビ見たり、コンサート行ったり、たまに政治会合」。ちまたには「小泉再登板」を求める声がありますよ。「それはわたしを知らない人たちの言うこと」「総理大臣はつらいよ。しょっちゅうあまたの敵と闘っているのは」 ご自分の葬儀にはどんな曲を? 「モリコーネの映画音楽を聴いてもらうのがいいんじゃない」 本は、こう結んでいる。 「総理大臣の職責から解放されて……これからは埋もれている名曲や新しい名曲を求めて遍歴の旅にでかけようと思っている」(聞き手・早野透、吉田純子) PR情報この記事の関連情報政治
|
ここから広告です 広告終わり どらく
鮮明フル画面
一覧企画特集
特集
朝日新聞社から |