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【健康】

前立腺がんの最新治療(2) IMRT(強度変調放射線治療) 正常組織への照射減らせる

2008年5月9日

 東京都国立市の会社役員上総(かずさ)中童(ちゅうどう)さん(72)は二〇〇三年四−六月に京都大学医学部付属病院で「強度変調放射線治療」(IMRT)を受けた。

 前立腺の異常を示す血中の腫瘍(しゅよう)マーカーPSA(前立腺特異抗原)の値が上昇、精密検査でがんが見つかった。転移はなく、がん増殖を抑えるホルモン治療を始めた。

 根治療法として手術を勧められたが、放射線治療機器の開発・販売に携わっていた上総さんは「仕事を休めないので入院が必要となる手術は受けられない。放射線治療の方が手術より治療後のQOL(生活の質)が保たれる」と判断した。

 上総さんは、前立腺とその周辺に均一に照射する従来法ではなく、がんの形に合わせて放射線に強弱をつけながら照射するIMRTを選択した。「従来の照射に比べ直腸出血など副作用が少なく、海外での治療成績も良かった」

 照射する放射線量は一日二グレイ。必要な七十四グレイに達するまでの約一カ月半の間、平日に毎日通院して照射を受けた。治療中は「多少頻尿になった」と話すが、痛みなどはなく、PSAの値も下がった。その後一年半ほどしてから副作用として直腸に軽い出血が起きたが、尿の出や性機能に影響はなく、PSAの値も正常に推移している。治療費は健康保険の三割負担で約六十万円だった。

   ◇

 従来の部位に均一に当たる照射法では、前立腺の近くの直腸や膀胱(ぼうこう)、尿道などにも多量の放射線が当たるため、副作用が起きやすいのが欠点だった。IMRTは専用コンピューターで放射線に強弱をつけ、がんに放射線を集中させ周囲の正常組織への照射を減らす。

 癌研有明病院の山下孝副院長(放射線治療科)は「従来の照射では均一に約七十グレイを当てるが、IMRTはがんに七十八グレイぐらいまでかけ、逆に直腸への照射量は六十グレイ程度まで落とせる」と説明する。

 この結果、重度の直腸出血は従来の照射で約10%の患者に起きていたが、約2%に軽減された。頻尿や排尿困難は起こる場合がある。性機能は手術に比べて維持できるが、小線源療法に比べると影響が出る場合が多い。特に高齢者は治療前に比べ、衰えるケースもある。

 このほか、がんの形を正確に調べて照射計画を立てるのに数週間かかる場合が多く、「治療までの待機期間は避けられない」と山下副院長は話す。

 治療対象は、がんが前立腺内にとどまっている場合(精のうに広がっている症例も含む)のみで、転移があれば対象外となる。IMRTに関する国内の治療成績のデータはまだまとまっていないが、山下副院長は「海外のデータでは手術と同等かそれ以上」と説明し、従来の照射と比べて「線量を多くかけている分、三、五年後の予後は良くなると考えられる」と分析する。

 昨年度までは国の先進医療に指定されていたが、四月から保険診療の対象となった。東京大学医学部付属病院、愛知県がんセンター中央病院、名古屋市立大学病院などでも同様の治療が受けられる。 (杉戸祐子)

 

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