渡辺えりの演出で長谷川伸の「瞼(まぶた)の母」が、10日から東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで上演される。1930年の初演以来、舞台や映画、浪曲などで親しまれてきた作品。それだけに、「劇団3○○」「宇宙堂」と独創的で情感豊かな小劇場系劇団を率いた渡辺がどう演出するか注目される。【高橋豊】
番場の忠太郎は5歳で生き別れになった母親恋しさから、股旅(またたび)生活を続けている。ようやく捜し当てた母のおはまは、江戸でも高名な料理屋の女将(おかみ)になっていた。忠太郎とは異父妹となる娘もいて……。
演出の渡辺は84年、劇団3○○で「瞼の女--まだ見ぬ海からの手紙」を作・演出した。「瞼の母」に触発されて書き下ろした作品。今で言えば、引きこもりの青年の「マブタの中にしかいない母」が描かれて、評価も高かった。
「(20代だった)当時は、おはまがどうして忠太郎に会おうとしないのか不思議で、早く会えばいいのにと。今回、原作を読み返して『これじゃ会えないよね』と彼女の気持ちがよく分かるのに驚きました。年のせいもあるのかな(苦笑)」
「『瞼の母』は、男性が演出することが多いけれど、女性の視点も大切にしたい。原作のセリフを一切変えずに、リアルで説得力があり、現代に通じる舞台を目指します。得意のシュールな演出は封印します」
忠太郎は草なぎ(くさなぎ)剛、おはまは大竹しのぶ。三田和代、篠井英介、高橋長英らが共演。草なぎの舞台出演は菊池寛「父帰る/屋上の狂人」以来2年ぶりだ。
渡辺は「長谷川伸の作品の魅力は、登場人物の情が濃いこと。今は人と人との関係が冷たい芝居が流行してるから、逆に見直されているのかもしれない。草なぎ君は勘のいい人で、集中力がある。しのぶちゃんには、かわいい面は抑えて、速いテンポの鉄火肌の女性を演じてもらいます。出演者一同、本読み段階から着物姿で集まってくれた。本格的な殺陣もお見せしたい」。
6月8日まで。問い合わせはシス・カンパニー(03・5423・5906)へ。
毎日新聞 2008年5月8日 東京夕刊