日報抄
間が悪いとはこのことだ。胡錦濤主席を迎え、ギョーザ事件をはじめとした中国の食の安全をただすのが、福田康夫首相の務めだったはずだ。「消費者重視はどこにいったのか。貴国の食品管理に問題がある。五輪選手の健康も心配だ」
▼首相はこう迫るべきだった。ところが会談当日、「船場吉兆」の不始末がまた明るみに出た。アユの塩焼きから刺し身まで、客の食べ残しを使い回していた。賞味期限や産地の偽装もひどいが、それ以上だ。もう腹話術の言い訳など聞きたくない
▼その影響か、首脳会談の空疎さといったらない。首相がギョーザ事件を「うやむやにできない」と言っても、中国は責任を認めようとせず、捜査協力でお茶を濁した。高級料亭の皿に食べ残しを盛るような国が、食の安全を説いても底の浅さを見透かされる
▼結局、主席訪日は大山鳴動してパンダ二頭だ。だが、中国にしても「パンダの使い回し」が指摘される。パンダは四川、甘粛、陝西の三省に約千六百頭が生息する。その山岳地帯は多くのチベット人が住むチベット文化圏だ
▼胡主席はチベット自治区書記を務め、暴動鎮圧の功績で中央に躍り出た。その人物が「チベットのパンダ」を土産に、日本からチベット情勢沈静化のメッセージを発する。皮肉な構図に憤る人もいる
▼パンダの貸与料は年一億円で研究費に充てるという。パンダ激減の背景には、地図を塗り替えるほどの森林破壊がある。産出される材木の多くは日本向けだ。パンダ保護の研究とチベット問題は無関係でない。
[新潟日報5月9日(金)]