対親バカ頑固親父への最終兵器 『……お父さんなんか大っっ嫌い!!!』 『ちょ…!?』 まさか娘からこんな事を言われるとは思わなかった。 事の元凶は娘に好きな男が出来た事だった。 そいつの名は榊原麗二。息子である勇羅の親友でもある男。 俺は2人に悪い虫が付かない様にと、愛情の類(たぐい)などは一切教えなかった。 性教育なんざ持っての他だ。そのお蔭で娘も息子も、今まで愛情や恋愛感情。 性に関しては全く無関心だったのだ。 だが、性に関しての教育を全く教えなかったのが致命的な仇(あだ)となった。 『麗二。キスの続き…教えて』 娘は……ユナは、次元移動存在覚醒直後の麗二とヤった。 「…うがあああああああああああああああああああああああっっ!!!」 「あーあ…ユナちゃんも遂に大人の階段を登ったのね〜」 「よくねえぇぇぇっ!! 俺の…俺の大事な娘があぁぁ……」 元々娘は好奇心旺盛な所もあったが、まさかアレに興味を示すとは…。 単独で魔機の世界に迷い込んだ勇羅の捜索をさせたのが間違いだったのか…。 捜索の途中、ユナは偶然にも勇羅の事を知っている麗二と会い、 麗二から色々な事を学ぶ内に、徐々に好意を抱いて行ったらしい。 「いい加減、親バカ卒業したら?」 「うるせぇ!!」 「ユナちゃんも勇羅君も、いつまでも子供じゃないのよ」 「分かってるよ!」 「だから、新米の麗二君をあんなにこき使ってるのね…」 一連の事件の後、魔機の世界で覚醒した新米次元移動存在達を連れ、 神界へ帰還した俺達は、新米達に指導を施している毎日だが、 あれ以来麗二への指導が、何かと厳しく(つーかスパルタに近い)なっているのも自覚している。 それには麗二本人も感ずいている様だ。 「個人的には、2人の事がアレにばれるのが楽しみなんだけど」 「刹那か…」 刹那=アルベド。 白の次元移動存在・ガイア派の一人で、以前から息子と娘にちょっかいをかけていた男。 いずれは2人を、自分のモノにしようと企んでいる様だったが、 其れだけはことごとく俺の手で阻止してやって来た。 だが既にユナは…。 「…今だけ、刹那の奴を応援したくなって来た」 「ちょっと…」 『お父さん!いるー?』 その時、中性的だがどこか甲高い声がドアの向こうから響く。 息子の勇羅だ。 「ああ」 『入るよ』 向こうからボタンを押す音が聞こえ、部屋のドアがスライドする。 ドアがスライドすると同時に、勇羅が部屋へ入室する。 「どうした?」 「失礼しまーす…あ、エリィさんも一緒なんだ」 「どうも〜」 「あのさ、麗二の事でなんだけど…」 来たか。 勇羅の奴も、俺の麗二に対する扱い方に気付いてやがったか。 「麗二の事でか」 「うん。最近麗二の奴、朝から晩までこき使われてて、何かすっごい疲れててさぁ…」 「……」 「それでお父さんって、麗二に対する扱い方何か酷くないかなって思って…」 「……」 「どうして麗二だけ、あんなに訓練量多いの?」 「それは…」 「ああ、それはね…」 「!?」 だが、エリィは俺の戸惑いも聞かず言葉を続ける。 「自分の娘を、どこぞの馬の骨に取られたから悔しいのよ」 「!?」 「…ふーん」 勇羅はジト目で俺を見ている。 その表情は、完全に呆れているとしか言いようの無い顔をしている。 「お父さん。大人げないね…」 「だ、黙れ!!」 呆れる表情をする息子に腹が立ち、言い返してやろうとした次の瞬間。 神殿郊外から大きな爆発音が響いた。 「な、何?」 「…『アレ』だな」 「『アレ』ね…」 普段結界の張られている、神界から聞こえる大きな爆発音に勇羅は少し戸惑っていたが、 俺達は大きなため息をつきながらも、即座に『アレ』だと判断した。 「あ、『アレ』って…?」 「勇羅君は初めてだったわよね?『アレ』?」 「いい機会だ。見に行くか?」 「う、うん」 俺達は部屋の窓から飛び降り、それぞれ光翼(フォトンウイング)を展開させると、 一気に空へ浮上し、爆発音のした方向へと飛行を開始した。 「よう。しつこいなお前」 「いい加減、諦めたら?」 「?…あーーーっ!!」 「ほう。今日は勇羅も一緒か…」 爆発音のした方向へ向かうと、案の定『アレ』が待っていた。 『アレ』の姿に、一瞬目を丸くした勇羅だったが、 それが自分のよく知っている人物だと分かると、すぐに驚愕の声を上げた。 周囲を警戒しながら下降し、刹那の近くへと着陸する。 「せ、刹那=アルベドっ!」 「今回こそは勝たせてもらうぞ」 「ハッ。減らず口を…」 「本当にもう止めといたら?」 当然、大事な息子と娘をこの男にやる気は毛頭無い。 俺は即座に光翼を広げ臨戦態勢に入る。 だが、そこに勇羅が俺達の間に割って入った。 「ちょ、ちょっとタンマっ!」 「?」 「どうした?」 「甘いよ刹那っ!お父さんを倒しても、もう俺達は手に入らないよ!」 「ど、どう言う事だ!?」 まるで勝ち誇ったように、刹那にそう宣言する勇羅。 俺の頬から一筋の嫌な汗が流れた。まさかとは思うが…。 だが俺の思いは空しく、勇羅は無情なる一言を刹那に放った。 「だって俺とユナは麗二のものだもん!!」 「!!?」 「……」 「あ〜ぁ…」 その場で固まり一瞬白くなる俺と刹那。 大きくため息をつくエリィ。 「な…に……っ」 刹那の声が震えているのが解かる。俺もそうだった。 ユナが見ていない所で、俺に無断で娘を寝取った麗二を死ぬ寸前までボコボコにしたもんな…。 まぁこれが原因でその後、ユナ本人に見つかってあれを言われたんだが。 「う…嘘、だ…」 「本当だよ。だってユナの奴、麗二とエッチしたんだもん! 俺はしっかりこの目で、2人のエッチ見たんだからね!」 「ちょっと…」 「……っ」 勇羅の爆弾発言にさすがのエリィも退いている。 過激な発言を連発する息子に、正直俺も泣きたくなって来た。 「な…っ」 「それに俺だって麗二と一緒にエッチしたもん!!」 「お、おいっ!!」 勇羅のとんでもない発言に、俺は瞬時に我に返り思わず突っ込む。 勇羅の壮絶な爆弾発言はまだまだ続く。 「×××な事して一緒に気持ちよくなったりとか、 ×××とか×××したりとかで、すっごい気持ちよかったんだから!」 「……」 「……」 あの野郎…。失恋してまだ少し傷心中の息子にも手ぇ出しやがって…。 明日から修行項目3倍増しにしてやる…。 麗二に対し、俺がそのような報復を考えている以上に更に、 2人に手を出したその男・榊原麗二に対し、憎悪を燃やしている男が俺の向かい真正面にいた。 刹那=アルベドだ。 「あ、あの男…よくも…。よくも俺の勇羅とユナに……っ!!」 「あ…」 「…あの2人は、この俺がじっくりと俺色に染め上げるつもりだったのに……っ!! 性教育もろくに出来ていない、純粋培養の甘い蜂蜜の様な愛らしい2つの花が、 じわりじわりと男を仕込まれて行く様を見届けて…」 何かこいつ、相当ヤバイ事言ってるよな。 妄想の強烈さじゃカノン…いや、ガイア以上かこいつ。 「…それなのに図体は大人の癖して、中身はてんでヘタレでクソガキな金髪野郎に、 俺の勇羅とユナを寝取られるなどありえん…っ!」 「お父さん…刹那の奴、何か恐いよ」 「あんまり、聞き耳を立てるな」 「そうよ。勇羅君はまだ、学生の恋でいいのよ」 「うん…」 「あの、妄想バカは放っといて帰るか」 「そうね」 いまだに妄想を続けている刹那は放置する事にし、俺達は光翼を展開させ神殿へと帰還した。 「勇羅もユナも、俺の手元に置いてじっくりと染め上げる筈だったんだ…! 俺色に染め上げたその暁には2人に『刹那様ぁ〜。もっと俺に色々えっちな事、教えて下さい〜』とか、 『刹那様。もうダメなんですぅ…早く、早くイカせてぇ』とか言われるはずだったんだ…!!(以下妄想へ)」 ちなみに刹那は、俺達がその場から居なくなったのに気付くまで、 2時間程自分の妄想に浸っていたらしい。 刹那を放置して神殿に帰還すると、 俺は勇羅に対し、先程の言葉の意味を追求する。 「…あれはどう言う意味なんだ?」 「あ、あれ…?」 「そうだ。麗二とシたって」 「あれ…ただの出まかせ」 「は?」 出まかせと言う言葉に俺はポカンと口を開ける。 「だって、ああでも言わないと諦めてくれそうにも無いし」 「お前なぁ…」 それって逆に、刹那のお前らへの略奪心を向上させて、 更に奴の麗二に対する嫉妬の炎に、油を注いでるようなもんだぞ…。 とは言えなかった。 「でも、ユナと麗二のエッチ見たのは本当だよ」 「見たのかよ…」 「後、2人のエッチ見ててちょっと羨ましいと思ったのも本当」 「……」 「俺、本当にああ言うのした事無いんだもん…」 「ゆ、勇羅君…。そう言うのは無理に覚えなくてもいいのよ」 「それは…解かってるけど…。 …お父さんだって麗二だって鋼太朗さんだって竜駕さんだってカシウスだって、 裏葉だってシヴァーのじいちゃんだって泪さんだってやってんのに、 俺だけ誰ともエッチした事無いんだもん!!」 「っ……」 「……」 勇羅の壮絶な爆弾発言に俺もエリィも無言になってしまう。 「勇羅君…誰とでもやるもんじゃないのよ、アレは」 「さ、最後の泪の方は本人非同意なんだし…」 「あぅ…でもぉ」 納得のいかなそうな表情で頬を膨らます勇羅だが、 どうにかして納得させるしかない。 「だ、大丈夫よ勇羅君。 勇希君もした事無いんだから、気にする事無いわよ」 「勇希は本当のガキだから知らなくて当然なんだろ。 俺はお父さんのとんでもない教育の所為で、1500年以上もそう言う事知らなかったんだからぁ!」 「ぐ…」 図星を突かれ思わず良心が突き刺さる。 2人の子供を幼い頃から戦闘兵器として、徹底的な教育を施した俺にも非はある。 それが原因で性知識が完全に赤ん坊レベルだったユナは、あっさりと麗二に寝取られる事に…。 「そんなにヤりたいんだったら…麗二本人に教えて貰えばいい」 「ええぇ!?」 「あらら、言っちゃったわね…」 「ただし、奴の修行量を今より3倍に跳ね上げる」 「うぐ…」 珍しく渋い顔をしてしばらく悩んだ後、勇羅は答えをだした。 「…わかった。麗二に教えてもらう」 そして勇羅は、麗二に『エッチのしかた』を教えてもらう為に、 麗二の居る部屋に駆け出して行った。 「いいの?あんな事言って」 「俺じゃあるまいし、すぐにピーピー泣いて諦めるだろうよ」 「さすが経験者は違うわね〜」 「…うるさい」 翌日。 早朝、神殿奥の宿舎の通路を歩いているとある部屋のドアが開いた。 その部屋から出て来たのは、凄まじく疲れた様子の麗二。 「どうした?」 「音弥さん…あんた一体、ユウに何吹き込んだんですか?」 「は?」 「…昨日ユウが『エッチのしかた教えてくれ』って、俺の部屋に来たんです」 「ほー」 「でもその時、間の悪い事にユナも一緒に居たんで2人に殴られるのは、 覚悟してたんですが」 「ふむふむ」 「ユナの奴。あろう事か『勇羅と3人で一緒にエッチして見たい』とか言い出して…」 「危険行為したんかぁ!!?」 「するかぁっ!!俺は猛反対したんだが、あまりに2人共頑固で、 こっちが言っても退きそうにもなくて…」 「…で、したのか?させたのか?」 「本番行為は断固として阻止させました…。 でも、その代わり交代交替で精気搾り取られまくりましたよ…」 「ほぅ…」 麗二の説明を聞く度に、俺の声が徐々に低くなり恐ろしくなっていくのが分かる。 「麗二ぃ…何かあったのぉ…?」 「難だよ、もう起床時間…?」 麗二の部屋から現れたのは案の定、目が覚めたばかりで寝ぼけ目の勇羅とユナ。 自室に居ないと思ったら、やっぱり麗二の部屋に泊まってやがったか。 「「……」」 2人が見たのは、俺に追い詰められ狼狽している状態の親友であり恋人の麗二と、 麗二を追い詰めて憤怒の表情をしている…父親の俺。 だが俺の顔を見るや、2人の表情は徐々に怒り目になってきている。 「せっかく麗二に、エッチな事いっぱい教えて貰ったのに…」 「お父さん…」 ヤバイ…この状況はまさか……。 「「……お父さんなんか大っっ嫌いっ!!!」」 「ぬなっ!?」 もう、勘弁してよ…。 勇羅…ユナ…。 おしまい