尾上菊五郎が東京・歌舞伎座の5月夜の部で「青砥稿花(あおとぞうしはなの)紅彩(にしき)画(え)(白浪(しらなみ)五人男)」の弁天小僧を演じている。
初演は1965年の東京・東横ホール。以来、あたり役として上演を重ねてきた。今回は4年ぶり。通し上演である。
「お客様に楽しんでいただける狂言にしたい。毎回、まっさらな気持ちでつとめなければいけないと思っています」
初演では父の尾上梅幸に教えを受けた。だが、小道具を使う間合いなどは「やりながら考えました。ビデオもない時代でしたから、自分で作ったようなものです」。
弁天は冒頭で若殿になりすまして登場し、後に盗賊の本性を現す。歌舞伎屈指の人気場面が、武家娘に化けた弁天が呉服店に乗り込む「浜松屋」。金をゆすろうとした弁天は男と見破られ、片肌を脱いで居直り、テンポよくタンカを切る。
続く「稲瀬川」では、日本駄右衛門を頭目とする一味の5人が勢ぞろい。捕り手に追われた弁天は、最後には極楽寺の山門の上で立ったまま切腹して果てる。
「丁寧な通しなので『浜松屋』しかご覧になったことのない方はもちろん、初めての方にもよくお分かりいただけるはずです」
書き下ろしの初演は幕末から明治に活躍した五代目菊五郎(当時、市村羽左衛門)。その子である六代目菊五郎(現在の菊五郎の祖父)も得意とした。
「若いときは六代目のおじいさんをご存じの先輩がたくさんいらして、六代目の声色風のリアルなセリフ回しを求められました。けれども、五代目はもっと昔風で派手な芸風だったはずです。私も、なるべく派手めに演じたい」
駄右衛門を市川團十郎(だんじゅうろう)、南郷を市川左団次、忠信を坂東三津五郎、赤星を中村時蔵、青砥藤綱(あおとふじつな)を中村富十郎が演じる。
昼の部では、菊五郎は「幡随(ばんずい)長兵衛」の水野十郎左衛門。こちらは團十郎演じる主人公、長兵衛の命を奪う敵役である。
26日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年5月8日 東京夕刊