ミャンマーを襲った大型サイクロンによる死者は十万人を超すともいう。この大惨事は、軍事政権が国民の生命と安全をなおざりにして権力維持に汲々(きゅうきゅう)としてきた結果にほかならない。
二日から三日にかけて、大型サイクロンがミャンマー西南部のデルタ地帯を直撃した。ミャンマー国営放送は当初、犠牲者について三百五十人以上と伝えたが、その後、国営テレビは死者が約二万二千人、行方不明は約四万二千人に達すると報道した。ミャンマー駐在の米臨時代理大使は死者は十万人以上との情報もあると述べ、国連人道問題調整部は、被災者は百万人以上との見方を示している。
犠牲者、被災者の正確な数字はいまだに掌握されていないが、熱帯低気圧による災害では、約十四万人の死者を出した一九九一年のバングラデシュでの被害に次ぐ大惨劇であることは間違いない。
サイクロンは気象観測による予測や予報が可能だ。科学技術の進歩により、世界的な観測網が張り巡らされている。インドの気象当局者は、サイクロン上陸の四十八時間前にミャンマー当局に知らせたと伝えられる。
今回の悲劇は、軍事政権の怠慢による「人災」であることも否定できない。インドからの警告は生かされず、国連の防災関係者が指摘するように、国民に適切な警報や避難指示が出なかった可能性が高いからだ。国民の存在を無視し続けた軍部長期独裁政権の体質が如実に現れたといっても過言ではないだろう。
軍事政権の急務は、被災国民の救済と復興促進だ。ヤンゴンはじめデルタ地帯の住民は食料や飲料水、医薬品などの緊急支援を切実に願っているが、軍事政権の対応は遅れている。
国連は無論、欧州連合(EU)や日本、米国など国際社会は一斉に緊急支援に乗りだしたが、ミャンマー政府は、国連職員らへの入国ビザ発給を遅らせるなど、国際支援要員を排除している。欧米からの批判などで国内体制が揺さぶられるのを警戒しての措置だという。政府当局は被災者を第一に考え、国際的な人道支援を制限してはならない。
タン・シュエ政権は、この惨状にもかかわらず、軍部の権力継続を図る新憲法の国民投票を一部地域を除き実施する方針だ。国民の生活安定が政府の責任であり、広範な市民と協力し、難局を乗り切る方策を見いだすことが先決だ。
この記事を印刷する