現在位置:asahi.com>社説 社説2008年05月09日(金曜日)付 ロシア新大統領―独り立ちするしかないロシアに異様な権力者2人体制が誕生した。42歳のメドベージェフ新大統領と、8年間の大統領任期を終えたばかりのプーチン新首相である。 憲法上は大統領が国家元首であり、首相の任命、解任権を含めて最高権力をもつ。だが、実際の権力は、少なくとも当面はベテランのプーチン氏が握ると見て間違いなさそうだ。 今後、この両者の関係はどうなるのか。二つのシナリオが語られている。 ひとつは「プーチン王朝20年説」と呼ばれるものだ。メドベージェフ氏は傀儡(かいらい)に過ぎず、4年後にはプーチン氏が復帰し、また2期つとめる。合計20年間の治世が続くというわけだ。 こんな説が出てくるのは、プーチン氏が首相ポストに加えて、議会の主導権も手に入れたからだ。 昨年12月の下院選挙で、自ら与党の名簿順位第1位で立候補し、7割の議席を占める大勝をおさめて、大統領退任と同時に党首の座についた。議会には大統領を罷免する権限もある。おいそれとは追い落とされない立場を確保したことになる。 しかし、これではまともな民主主義とは言い難い。ソ連末期以来の社会混乱を思えば、何より安定を重視したい人々の気持ちは理解できるが、強引な政権継続はかえって社会の不安定を招く。中流階層が厚みを増せば、自由を求める声も膨らんでいくからだ。 期待したいのは第二のシナリオである。プーチン氏がにらみを利かせるのは政権移行期の混乱を防ぐためで、ほどなくメドベージェフ氏は独り立ちするというものだ。 プーチン政権は安定していたとはいえ、情報機関出身者や有力官僚、新興財閥などの諸グループの均衡の上に成り立っていた。経験の浅い新大統領の下で新たな均衡をつくるのは容易でない、というのはその通りだろう。 新大統領は政策の継続を強調する一方で、法による支配の確立や自由の拡大、国家統制色の濃い経済からの脱皮などを口にしている。 強権的な統治が目立ったプーチン時代をロシア復興第1期とすれば、第2期はよりソフトで自由なロシアを目指すなら歓迎したい。それが真の安定と発展につながることになる。 いずれにしても、混乱は避けられまい。ふたりがどう仕事を分担するかもまだはっきりしないのだ。外貨を稼ぐ原油価格は高止まりしているものの、国内ではインフレが進み、貧富の格差は広がる一方だ。国民の不満が高まれば、どちらが責任をとるかで権力闘争が始まりかねない。 米欧との関係は冷え込んでいるし、旧ソ連のグルジアやウクライナとの確執も続く。ふたりで別々の外交をやるわけにはいかない。新大統領の独り立ちを急ぐべきだ。 地方分権―官僚になめられるなあまりのやる気のなさに、ため息が出る。地方分権改革に対する官僚の態度のことである。 内閣府の地方分権改革推進委員会は、分権の具体策を盛り込んだ第1次勧告を月内にも出すべく、中央省庁の局長らと公開討論をするなど準備を進めている。並行して、地方分権改革担当相を兼ねる増田総務相が、閣僚との個別折衝にあたっている。 一部の国道や1級河川の管理、農地転用の許可は、都道府県ができるようにする。教職員の人事権は、都道府県から市町村に移す。福祉施設の全国一律の基準を緩め、地域ごとに基準を設けられるようにする。 分権委が勧告しようとしているのは、例えばこんな内容だ。ところが、分権委のこうした要求に省庁側が示しているのは、ほとんどが拒否や先送りなどの「ゼロ回答」だ。 非協力的な態度に、福田首相は先月、「各府省の対応は不十分。閣僚は政治家としての判断で取り組んでほしい」と苦言を呈した。勧告が出る前から担当相が閣僚折衝に乗り出すのは、こんな背景があってのことだ。 分権委には、自治体が地域全体のバランスを考えて街づくりをしたり、地域の実情にあった福祉や教育を進めたりできるようにする狙いがある。 それだけではない。意思決定を住民の身近ですることでチェックしやすくしたり、二重行政の無駄をなくしたりするのも大きな目的だ。 少子高齢化で税収が先細りする中で、こうした改革は不可欠なのに、役所側は相も変わらず次のような理由を持ち出して、分権を拒んでいる。 農地転用許可に対しては、「食料の安定供給のため、国が全国的視野で農地確保を図ることが必要だ」。福祉施設については「一定水準の処遇と生活の質を確保する必要がある」。 こんな理屈が説得力を持つとは、とても思えない。たとえ国益に反しても自分たちの権限は手放したくないというのが、官僚の本音ではないか。 そんな官僚を動かすことこそ、政治の役割である。政権の求心力の低下を見透かしたかのような官僚のサボタージュを許してはならない。 分権委は抵抗にひるまず、大胆な勧告を打ち出して、首相に実行を迫るべきだ。勧告の内容をきちんと実行するためにも、増田氏は各閣僚を説得しておく必要がある。 増田氏は、旧建設官僚から岩手県知事に転じ、市町村への権限移譲を進めた「改革派」だ。入閣は、こうした経歴を買われてのことだ。 福田内閣がいつまで続くかは定かでないし、議員バッジもない増田氏だ。だが、ここは地方自治での実績を武器に、役所の利益を代弁しがちな閣僚たちをねじ伏せる迫力を見せてほしい。 PR情報 |
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