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2008年5月9日

◎馬氏が墓前祭出席 感謝の念の深さを物語る

 五月二十日に台湾総統に就任する馬英九氏が八田與一技師夫妻の墓前祭に出席したのは 、台湾の人々の八田技師に対する感謝や尊敬の念の深さを物語る。馬氏はこれまで日本統治時代に厳しい歴史認識を示してきたが、鳥山頭ダムを築き、台湾で「農業の父」と慕われる八田技師だけは特別なのだろう。そうした思いを北陸の人々も共有し、八田技師を通じた両地域の絆(きずな)をさらに太くしていきたい。

 戦後、台湾で日本人の銅像や出版物などが廃棄された時代、ダムのほとりに建つ八田技 師の像だけは地元民が運び出して倉庫に隠したという逸話がある。不毛の嘉南平原を穀倉地帯に変えた恩は忘れがたく、台湾の人々が今も敬愛する日本人が金沢市出身の八田技師である。

 馬氏は昨年十一月に京都市の同志社大で演説した際にも「歴史を忘れず、歴史を許す」 と語り、八田技師の功績を紹介した。総統選を前に反日イメージを払拭する狙いとの見方もあったが、八田技師はむしろ日本統治時代の評価をめぐって「反日」「親日」に色分けされやすい台湾の人々の歴史認識を超えたところに存在しているのではないだろうか。

 「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」は毎年、現地で墓参を続けている。手取川七ケ 用水土地改良区と嘉南農田水利会が姉妹提携し、石川県議会と台南県議会も友好交流協定を結んだ。台湾観光客の誘致をめぐる地域間競争が激しさを増す中、八田技師を通じた人的交流の蓄積はこの地域の何よりの強みである。

 六月の小松―台北定期便就航に向け、県は八田技師の生誕地などゆかりの地をめぐるコ ースを設定した。八田技師の名を知る人たちにとって、そこが生地と分かれば旅情は格別なものになろうし、親近感が強まり、再び訪れようという気持ちになるかもしれない。

 何より大事なのは迎える側も八田技師を知ることである。せっかく金沢を訪れても地元 の人たちが無関心では台湾観光客も落胆するだろう。今秋には八田技師を題材にしたアニメ映画も公開される。台湾の人たちに負けないくらい八田技師のことを学ぶ年としたい。

◎ふるさと納税 息長く縁を結ぶ発想を

 石川県がきょうから募集を開始する「ふるさと納税」は、郷里などとの「縁」を深めた いと思う県外在住者を増やし、ふるさとの良さを再認識してもらう「手段」と考えたい。税収アップを「目的」として、ソロバン片手に賛同者を募るのではおのずと限界があり、しりすぼみになりかねないと思うからである。

 むしろ、ふるさと納税で集めたお金の一部は、応募者に還元するような気持ちで、たと えば地元のイベント紹介や旅行の勧めといった情報発信に使い、「里帰り」を促してほしい。納税をきっかけに、息長く縁を結んでいく発想を求めたい。

 ふるさと納税は、郷里などへの寄付金額に応じて、個人住民税を減額できる制度である 。石川県はホームページに「ふるさと石川応援サイト」を開設し、寄付金の使い道について、金沢城の復元整備など具体例を明示する。富山県の場合は、石井隆一知事が▽ふるさと文学の振興▽県内のプロスポーツ振興▽世界遺産登録活動などに充てる考えを表明している。

 使途の具体例を挙げるのは、応援したいという思いを引き出すためにも効果的だろうが 、それだけでは十分とはいえない。事業の進ちょく状況や成果などについて、きめ細かに情報提供していく努力もいる。金沢城の復元整備なら、完成した暁には、特別の「見学会」を催すなどして、旅行の誘いをかける工夫をしてはどうか。

 ふるさと納税の対象者は、まず第一に首都圏や関西圏在住の地元出身者となろう。金沢 市で言えば「TOKYO金澤CLUB」など、県人会組織にまめに声をかけていきたい。ふるさとに何らかのかたちで恩返しをしたいと考えている人たちをネットワーク化し、新たなファン層を開拓していく機会になればいい。

 ふるさと納税は、地方と都心部の税収格差の是正をうたい文句にしているが、新たな税 源として過剰な期待を寄せるのは無理がある。そんなことより、故郷を離れて暮らしている人々に、故郷を忘れないでいてもらうための一種の絆(きずな)と考えてほしい。


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