中国の胡錦濤国家主席が来日し、福田康夫首相との首脳会談が行われた。中国の国家元首としては十年ぶりの来日で、両首脳は環境問題やチベット問題、夏の北京五輪など幅広い課題で意見交換し、日中両国が国交を回復した一九七二年の共同声明から数えて四番目となる共同声明を発表した。
両首脳は二〇〇六年に当時の安倍晋三首相が胡主席との会談で打ち出した戦略的互恵関係を拡大することで一致し、共同声明も関係の深化を目指す内容となった。日中関係を双方にとって最も重要な二国間関係と位置付け、戦略的互恵関係を包括的に推進するとした。胡主席は会談で、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに対する理解も表明した。
二〇五〇年までに世界全体で温室効果ガス排出量を半減させる長期目標に中国が「留意し、措置を検討する」と明記した温暖化対策に関する共同声明も出された。主席は新たなパンダの貸与も首相に伝えた。
チベットでの人権弾圧問題をめぐり、欧米を中心に中国に対する批判が高まっている。中国製ギョーザによる中毒事件も真相解明に至っておらず、両国間のトゲとなっている。中国側には今回の胡主席の訪日で、日本の対中感情を改善し、国際世論の沈静化にも役立てる狙いがあったろう。関係強化の共同声明で中国側は戦後日本の歩みを初めて積極的に評価し、戦争や侵略に対する日本の反省や責任は盛り込まれなかった。
東アジアや世界のためにも両国首脳の率直な意見交換が重要だったが、今の厳しい状況に照らせば会談には物足りない印象も残った。首相は、チベット問題で中国政府とダライ・ラマ十四世側との接触を歓迎し、対話の継続を求めた。国際社会の信頼回復に向け、主席により強く状況の改善を求めてもよかったのではないか。
ギョーザ中毒事件でも両国捜査当局の協力強化を申し合わせたものの、真相解明への展望は見えないままだ。懸案の東シナ海ガス田開発問題では両首脳が「大きな進展があり、解決にめどが立った」との認識を示した。両国にとって朗報だが進展の根拠は示されておらず、まだ安心できない。
関係強化の共同声明には、首脳の定期相互訪問実現を目指すことも盛り込まれている。言いにくいことも言い合ってこそ、互いの関係が深まる。今回の首脳会談を契機とし、両国政府は実際に問題解決につながる、より率直な政治対話を重ねていくべきであろう。
ソフトウエア最大手の米マイクロソフト(MS)が、仕掛けていた米インターネット検索大手ヤフーに対する買収を断念した。買収額で折り合わなかったとされる。
MSは、パソコン向け基本ソフトのウィンドウズで急速に成長し、圧倒的な市場占有率を誇る。勢いを継続させるために、ネット分野に経営の軸足を移し、覇権を狙う戦略を立てたが、その前に立ちはだかるのがグーグルである。米国のネット検索市場の六割を占めて首位を独走する。MSのシェアは三位だが、わずか一割にすぎない。グーグルとの差はあまりに大きく、MSがネット事業に力をそそいでも単独で追いつくことは困難との見方が強い。
グーグル追い上げにMSは、検索市場の占有率二位のヤフー買収を打ち出した。統合すれば、合計シェアは約三割となる。規模の拡大によってシェアの格差を一気に縮め、グーグルの一人勝ちを防ぎ、有力な対抗馬になることも可能だろう。
買収提案額は、当初の二月初め時点では総額四百四十六億ドル(約四兆七千億円)、一株当たり三十一ドルだった。ヤフーは提案を拒否した。企業価値を過小評価しているとの理由だ。MSは「適正」との姿勢を崩さなかったが、その後約五十億ドル(約五千二百億円)、一株当たり二ドル上乗せした。それでもヤフー側は過小評価と拒否を貫いた。結局、MSは買収断念を発表した。敵対的買収を強行すれば、ヤフーの人材が流出する恐れがあり、提携効果が得られないと判断したとみられる。
ネット事業は次世代の有力な成長分野であることは間違いなかろう。技術革新のスピードも速く、大胆な経営戦略が欠かせない。業界を揺らす荒波がおさまることはあるまい。
(2008年5月8日掲載)