初めてコンピュータにさわったのは、大学3年生のとき。30年ぐらい前になるかな。その時はやっていたのは、「インベーダー・ゲーム」といって、宇宙から飛んでくる円盤みたいなインベーダーを地上から打ち落とすもので、今のゲームと比べれば動きもおそいし、キャラクターも簡単なものだった。
でも、ぼくはそれに夢中になった。ゲームもそうだったけれど、テレビの画面の中で人やモノが自分の操作通りに動くのにすごく興味を持ったんだ。なぜ、こんなふうに動かすことができるんだろうって。
大学のとき、ぼくが勉強していたのは物理学といって、理科の勉強の1つなんだ。物理学には、例えば宇宙ロケットを飛ばすには、どれだけエネルギーが必要か?石を投げれば、どんなコースを描いて地面に落ちるか?…。簡単にいえば、そういったこと(原理や法則など)を学ぶんだ。
ぼくは大学を卒業すると、「コナミ」というゲームをつくる会社で働きだした。物理学とコンピュータ・ゲームというと、「?」って顔をするかもしれない。でも、ゲームのプログラムをつくるのに物理学はとても重要なんだ。
ぼくがつくったゲームに「実況パワフルプロ野球」がある。ピッチャーがカーブやシュートを投げ、バッターが打ち、野手がボールをとって投げる野球ゲームは、まさに物理学の世界だ。また、最近のゲームは、主人公の髪の毛が風でなびく様子や波の動きなど、キャラクターにしても背景にしても本物そっくりだ。それをつくるには、物理学や数学の知識がないとつくれないんだよ。
数学や物理というと「難しい」と思っている人が多いけれど、ぼくはパズルを解いたり、犯人をさがすコナン・ドイルやアガサ・クリスティの探偵小説のようなものだと思っている。歴史の問題は年号を覚えていないと解けないけれど、数学や物理の問題は基本的なことを知っておけば、後は『知恵』や『想像力』をしぼれば解ける問題が多いんだ。
ゲームの世界では、リアルな動きをつくる人、キャラクターをつくる人、ストーリーをつくる人…と役割がわかれている。数学や物理が苦手でも、ストーリーやキャラクターづくりで創造性を発揮できる人ならゲーム・クリエイターになれる。
でも、ぼくは小学校、中学校、高校で数学と物理の基本をしっかり勉強して、ゲームのプログラマーを目指してほしいと思う。なぜなら、すごく楽しいんだ。なかでも、きれいなプログラムができたときは最高にハッピーだ。
同じようにキャラクターが動いても、へたな人がつくったプログラムは複雑で、じょうずな人がつくったプログラムはシンプルだ。迷路を解くのがへたな人はあっちこっち行き止まりに入り込むけど、うまい人は最短のコースで出口に到達する。きれいなプログラムは、迷路に引かれた正解の線のように単純で、きれいなんだ。
コンピュータ・ゲームの世界に進みたい子どもたちは、たくさんいると思う。そんな子どもたちに言いたいのは、いつも「なぜ?」という疑問を持ち、その原因や理由を探しだすこと。
ゲームばかりに熱中しないで、積極的に外に出て遊んだり、ゲーム以外のコトにも「好奇心」をもってほしいということだ。
面白いゲームの「もと」となるのは、子どものころに疑問に思ったり、不思議に思ったこと、経験した楽しかったことだ。ぼくがつくった野球ゲームも、小さいころに原っぱで遊んだソフトボールがなければ生まれなかった。
ゲーム会社ではゲーム・オタクは採用しない。なぜなら、彼らは今あるゲームに夢中になりすぎて、新しいゲーム、誰も見たこともないようなゲームをつくりたいという夢がしぼんでいるからだ。それより、ゲームは好きだけれど、本を読んだり、旅行をしたり、映画を見るのが好きという人にきてほしいんだ。その人の方が、想像力が豊かだからね。ゲーム以外のことにも、もっと熱中してほしいな。そして、科学や不思議に対する好奇心の芽をもっともっと育ててほしいな。