人間関係や労働、家事など日常をきめ細かくとらえたエッセーや、反戦平和を希求する積極的な発言で知られた随筆家の岡部伊都子(おかべ・いつこ)さんが29日、肝臓がんによる呼吸器不全で死去した。85歳だった。葬儀は親族のみで行う。友人たちによる「しのぶ会」が5月31日午後2時、京都市上京区寺町通丸太町上ルの洛陽教会である。
大阪・船場の商家に生まれた。初恋相手だった婚約者は沖縄戦で自決し、戦後すぐに結婚した夫とは7年後に離婚。54年からラジオ番組に書いたエッセーを「おむすびの味」(56年)にまとめた。「いとはんさいなら」「賀茂川のほとりで」など、暮らしに息づく日本の伝統を情感あふれる文章でつづり高い評価を得た。
一方で、「この戦争は間違っている」と語る婚約者を日の丸を振って送り出した経験から戦後、自らを「加害の女」と断じた。沖縄問題に積極的にかかわり「二十七度線 沖縄に照らされて」を著すなど反戦平和の姿勢を貫いた。
6、7年前に見つかった肝臓がんを「分身」と呼び、摘出を拒否。余命わずかと診断されながら、昨夏まで取材に応じた。
毎日新聞 2008年4月29日 17時29分(最終更新 4月30日 1時20分)