7日行われた福田康夫首相と中国の胡錦濤国家主席の会談は、懸案について具体的な解決策を見いだすには至らなかった。しかし、相互信頼を築き国際社会で責任を分かち合うことを確認した共同声明をまとめたことを評価したい。
靖国問題をめぐる対立で冷却化していた日中関係は、06年10月の安倍晋三首相の訪中、昨年4月の温家宝・中国首相の訪日、そして昨年12月の福田首相の訪中を経て首脳交流がようやく定着してきた。今回の胡主席訪日は、中国の国家元首として10年ぶりのことだ。
1998年11月に来日した江沢民国家主席は小渕恵三首相との間で、「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」をうたった共同宣言をまとめた。ところが、歴史認識で日本の謝罪が明記されなかったことに中国側が反発し署名が見送られた。
今回、両首脳が署名し、発表した共同声明は、72年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言に次ぐ4番目の政治文書だ。安倍首相訪中の際に確認した戦略的互恵関係の「包括的推進」をうたっている。互いの利益を拡大する協力を行うことで両国関係を発展させようというものだ。
共同声明で注目されるのは、歴史認識の扱いだ。過去の戦争に関する日本の謝罪や反省には触れず、戦後日本の平和国家としての歩みを中国側が積極的に評価した、と記している。
こうした表現が政治文書に明記されたのは初めてだ。中国側には当然、チベット問題での国際批判をかわし、北京五輪を成功に導くため日本から協力を取り付けたいという思惑はあるだろう。そうだとしても、今後の日中関係の指針となる政治文書に、未来志向の中国側の姿勢が反映された意義は大きい。
チベット問題は共同声明で直接的には触れなかった。首脳会談で福田首相がダライ・ラマ14世側との非公式対話を評価し対話継続を求めたのに対し、胡主席は話し合いに真剣に臨んでいると応じた。
チベット問題に対する国際社会の憂慮に耳を傾けたものと受け止めたい。日中の指導者の間で、このような関係が続くことが重要である。
東シナ海のガス田開発について両首脳は「進展があった」と述べたが、当初目標としていた今回の首脳会談での最終合意には至らなかった。冷凍ギョーザの中毒事件も調査継続を確認しただけだ。
しかし、大きな進展がなかったからといって落胆する必要もないだろう。共同声明は、日中関係は最も重要な2国間関係の一つであり「長期にわたる平和と友好のための協力が両国の唯一の選択との認識で一致した」と明記している。あせらず、おおらかに、「戦略的互恵」の関係を育てたい。
毎日新聞 2008年5月8日 東京朝刊