◆先月始まったレセプト並みの記載。チェックのポイントは。
4月から、国立がんセンター(東京都中央区)や国立循環器病センター(大阪府吹田市)など全国8カ所の国立高度専門医療センターで全患者に無料で発行されるようになった診療報酬明細書(レセプト)並みの詳しい領収書。以前は分かりにくかった医療情報が記載されている。
■単価を表示
これまでの領収書には、「初・再診料」「投薬料」「入院料」など保険が適用されるものは区分ごとに点数で表示されていた。1点あたり10円で計算する。その合計と、「室料」「洗濯代」など保険給付外の金額の合計をあわせたものが「請求額」として表示されていた。
そのため、記載されている点数は投薬料など区分ごとの小計に過ぎず、それぞれの単価までは分からなかった。また、以前は請求額しか書いていない医療機関もあったという。
一方、レセプト並みの領収書になると、それぞれの区分にさらに詳細な項目が表示される。例えば、「検査料」の場合、「微生物学的検査判断料」「検体検査管理加算」「HCV核酸定量」など受診の際に受けた検査ごとの点数が記されている。注射や投薬の項目には、薬の名称だけでなく使用された量なども記載されている。
厚生労働相の諮問機関「中央社会保険医療協議会(中医協)」の委員として、医療の情報公開問題に取り組んでいる勝村久司さん(46)は「スーパーなどで買い物をすれば、単価や合計が記されたレシートを受け取るのは当たり前。一部ではあるが、病院でもようやくそのレベルに追いついた」と話す。
■正確な情報収集に
レセプト並みの領収書で何が分かるのか。勝村さんは「注射など病院で投与された薬の正式名称や量などが書かれている。これが一番のメリット」と指摘する。
病院で処方された薬は、数年前から名称や量、効能などを記した説明書が添付されることが多くなった。しかし、注射などにはどんな薬が含まれているか分からず、医者に尋ねて説明してもらうしかなかった。
名称が分かるようになると正確な情報を自分で調べることができる。独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」の情報提供ホームページ(http://www.info.pmda.go.jp)の「医療用医薬品の添付文書情報」で薬品名を入力して検索すると、薬の効能や用法、副作用、禁忌などが分かる。
病院のカルテや健康保険組合のレセプトの保存期間は原則5年。薬害肝炎では、使用された血液製剤名(フィブリノゲン)が特定できず、救済されない被害者がいた。勝村さんは「領収書をしっかりチェックすれば、薬害や副作用被害から自分の身を守ることにつながる」と話す。
レセプト並みの領収書はどんな治療を受けたか一目瞭然(りょうぜん)にしてくれる。不要な投薬や検査、治療費などの不正請求の防止も期待できるという。
■手数料徴収も
全国8カ所の国立高度専門医療センター以外では、400床以上の大病院では患者からの申し出があれば発行が義務付けられ、400床未満では努力義務となった。中医協の調査によると、大半は無料だが、5000円の手数料を取る病院があったという。
手数料840円を徴収している慶応病院の会計担当者は「事務処理の経費などを考慮すると、これくらいの金額はかかる。仮に件数が増えると事務作業が煩雑になり、無料化は難しい。周囲の動向を見ながら、当面は現状で行く」と話す。
舛添要一厚労相は2月、参議院の予算委員会で「基本的に目指すゴールとしては無料。例えば1枚のレセプトを出すのに5000円取るとか、そういう常識外のことをしてはならない。医療提供者側の意見にもめげず全力を挙げる」と述べ、無料発行が好ましいとの見解を示している。
勝村さんは「多くの患者はまだ詳細な領収書のことを知らないので、病院は患者に周知すべきだ。医療が透明化すると病院の質が上がり、さらに情報の共有化で医師との信頼関係も築けるので、患者はどんどん領収書を請求してほしい」と話している。【奥山智己】
毎日新聞 2008年5月6日 東京朝刊