◎東海北陸道効果 金沢港振興の追い風にもなる
七月に全線開通する東海北陸自動車道は、単に中京地区から北陸を訪れる観光客の増加
をもたらすだけにとどまらず、今秋の暫定供用に向けて大水深岸壁の整備が進められている金沢港にとっても、利用促進を図るうえで追い風になる。時間距離が縮まる岐阜県内の企業へのポートセールスなどを積極的に展開し、好機を逃さないようにしたい。
東海北陸道開通を見据え、隣の伏木富山港を抱える富山県などは昨年八月、岐阜市内で
初めての同港利用促進説明会を開いて岐阜県内の企業に活用を呼び掛け、十月には岐阜県担当者や荷主企業、運送業関係者らが伏木富山港の視察に訪れている。それに比べて石川県は、東海北陸道と北陸道の結節点となる小矢部砺波ジャンクション(JCT)が富山県内にあるためか、今のところはポートセールスの面でも、いささか出遅れている感が否めない。
ただ、私たちがこれまで指摘してきたように、金沢港からも小矢部砺波JCTは近い。
売り込み次第では岐阜県内、とりわけ地理的に近い飛騨地方に立地する企業に食い込むことも可能なのではないか。県と金沢市、金沢港振興協会などが一体となって、まずは狙えそうな企業のリストアップを急いでもらいたい。
近年、金沢港のコンテナ取扱量は順調に伸びており、昨年度は過去最多の二万七千五百
七個(二十フィートコンテナ換算)に達した。貨物が増えれば定期航路の拡充につながり、それがさらに新たな貨物を呼び寄せるという好循環が生まれる。港湾を利用する企業の誘致と併せて新たな荷主企業の開拓を進め、コンテナ増加の流れを加速させていきたい。
北陸新幹線と同様に東海北陸道も、開通すれば当然、効果ばかりではなくストロー現象
も予想されるが、こちらも、石川県の危機意識は富山県と比べると薄いように思われる。小矢部砺波JCTとの近さを考えれば、金沢港と名古屋港などとの綱引きも十分に起こり得る。「ストロー対策」の観点でも、太平洋側に流れる分以上の貨物を奪い取るという「攻めの姿勢」が不可欠だろう。
◎日中首脳会談 肝心の「あんこ」が見えぬ
福田康夫首相と胡錦濤国家主席による日中首脳会談は、愛国教育で中国国民の反日感情
をあおった江沢民前主席時代と一線を画し、中国側が対日重視路線に転換したことを明確に印象づけた。共同声明で中国側が戦後日本の歩みを積極的に評価し、戦争や侵略に対する日本の「反省」「責任」が盛り込まれなかったことは、戦略的互恵関係を前進させるものである。
それでも、東シナ海のガス田開発問題などの懸案で具体的な成果があったわけではない
。さまざまな分野の対話と協力がうたわれ、見た目はおいしそうでも、肝心の「あんこ」が乏しいまんじゅうの感がある。ガス田問題で福田首相は「大きな進展があり、解決のめどがついた」と述べたが、その内容は不明である。日本側の一方的な譲歩による解決にならぬよう再度クギを刺しておきたい。
今回の訪日を「暖かい春の旅」と位置づける胡主席の姿勢から、日中関係改善の意欲は
伝わってくる。経済の高成長維持や深刻な環境問題の解決などに日本の協力が不可欠なことに加え、北京五輪を前にチベット問題で国際的批判が強まるなか、日本の理解を取り付けたい思いが強いことは間違いない。そうした胡主席の狙いに、対中国外交で政権浮揚を図りたい福田首相の思惑が重なって日中友好ムードが醸し出されている。
ただ、友好ムードに流されず、冷徹に中国の動向を見極める目も失ってはなるまい。五
輪を何としても成功させねばならない中国側の焦りが、歴史問題での譲歩につながり、歴史を政治問題化する繰り返しから脱却する足掛かりを得たとも言える。しかし、歴史問題が蒸し返され、五輪聖火リレーで示された中国国民の強いナショナリズムが日本批判に転化しかねない危うさは依然否定できない。
日本国民の間には、異質な政治体制の下で軍事、経済大国化の道を突き進む中国への不
安や警戒心がある。胡主席の今回の訪日目的は、そうした日本国民の疑心暗鬼を解くことにあるといわれるが、そのためにはまだまだ日中双方の外交努力が必要である。