休みなしで原画を200枚描いても月数万円、社会保障や退職金もない--。アニメ大国と言われながら、長時間労働と低賃金で人材離れが進むアニメ制作現場の労働環境を改善しようと、アニメーターや演出家が13日、「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」を設立する。アニメ業界でこうした団体ができるのは初めてで、賃金アップや残業代の支給を業界に訴えていく。
人気アニメ「北斗の拳」の監督としても知られる制作会社「スタジオライブ」(東京都板橋区)の芦田豊雄社長の呼びかけで実現した。JAniCAには約500人が参加。代表の芦田社長は「劣悪な労働環境を背景に国内では人材不足が慢性化している。このままでは、日本の制作現場は崩壊する」と語る。JAniCAは今後、国や地方自治体にも人材育成支援への協力を働きかけていくことにしている。【森有正】
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「小さいころから夢だった仕事に会社員から転職したが、1日12時間働いて月収は以前の半分。徹夜が続いても残業代はないし、医療保険さえない」。都内のアニメ制作会社で働いて2年目の女性(32)は労働条件の厳しさを訴える。
会社員時代はマンションで1人暮らしをしていたが、転職後は家賃が払えなくなり、実家へ帰った。生活費を切りつめるため化粧もやめた。医療費がかかるからと、病気が悪化するまで病院に行かなかった同僚もいる。「海外旅行なんてできなくてもいい。せめて普通に暮らしたい」と言う。
ベテランのアニメーターも老後の不安を抱える。人気アニメ「あしたのジョー」の作画監督として有名な金山明博さん(68)は「40年近くアニメの世界にいたが、契約社員として働くことが多く、退職金ももらえなかった」と振り返る。
体調を崩して59歳で一線を退いた。今は月12万円の年金が頼りだ。「同年代の業界仲間には生活保護を受けたり、ホームレスになった人もいる。こんな環境で日本のアニメはいつまで持つのか」と心配する。
業界では近年、深夜テレビやインターネット配信向けにアニメの需要が増加。テレビ向けに限っても新作は20年前の約3倍の年間100本も生まれる。
しかし、制作現場では人件費の安い韓国や中国の下請け会社との競争で賃金が下がっている。そのうえ、アニメーターは1作品ごとに契約したり、フリーの立場で働くケースが多く、身分は不安定だ。「親のスネをかじらないと仕事が続けられない」(都内の23歳男性)状況が広がる。
2007年10月13日