飯田泰之の「ソーシャル・サイエンス・ハック!」

気鋭の若手経済学者が、社会問題・経済問題を、Hacks的な手法を用いて、その解決策を探る。

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番外/貯金はないし、太ってるし、喫煙者だし

2007年8月25日

(飯田泰之の「ソーシャル・サイエンス・ハック!」第12回に関連して)

ちょうどそろそろ行動経済学にも言及しなければと思っていたので、大阪大学主催の第4回行動経済学カンファレンスに出席してきました。今回のテーマは「ダイエットと経済学」[*1]です。

そのなかで、大阪大学の池田新介教授の報告によると貯蓄額と肥満度には負の相関関係があるということです。つまりは、貯蓄額が少ない人は太っていて、やせている人は貯蓄が多い傾向があるというわけ。また、喫煙者貯蓄額が少なく、肥満度も高い傾向があるとも言われます。

さて、前々回から繰り返している「すべての人は、それなりに自分の基準での満足度を追求している」ということですね。貯金もせず、太っていて、タバコを喫う人[*2]……要するにダメ人間の見本みたいな人はどんな「自分なりの基準」に従って行動しているのでしょう。

その答えが、第6回で紹介した割引率です。現在と将来をどのくらいの比重で重視するか。割引因子が大きい人にとっては、1年後の100万円よりも今日のお金が重要です。そういう人があまり貯金をしないというのは当然の帰結でしょう。同様に、割引因子が大きい人は将来の肥満や肺ガンよりも、今日の快楽を重視するわけです。

割引因子が大きい、将来のことを大きく割り引いて評価する人に対して「なんでもっと将来のことをちゃんと考えないんだ!」というのは愚問です。「なんで先のことばかり考えて、現在のことをおろそかにするのだ」と返されるのがオチでしょう。アリとキリギリスの寓話は、なんだかアリが偉くてキリギリスが馬鹿……みたいな教訓を引き出すために使われますが、キリギリス側からみると「せっかくの夏を楽しまないなんて人生を損してるなぁ」という話になるでしょう[*3]。

*1 ものすごく恥ずかしいことに、黒烏龍茶持参で会場入りしてしまいました。駅の自動販売機にあったからなんとなく買っただけなんですが……これじゃあ、なんかものすごい「ダイエット」に興味ある人みたいじゃないですか!
*2 僕のことですが何か!
*3 そんなことはない!と憤慨されたあなたは、水木しげる「幸福の甘き香り」(『ねずみ男の冒険』所収、ちくま文庫)を読むと良いと思います。

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1975年生まれ。駒沢大学経済学部准教授。著書に『経済学思考の技術』『ダメな議論』、共著に『論争 日本の経済危機』『セミナール経済政策入門』などがある。

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