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日本内科学会は「賛成」を表明
死因究明制度・第3次試案 麻酔科学会は実質反対へ

2008.5.7

 厚生労働省の医療死亡事故の死因究明制度・第3次試案に対して日本内科学会は4月30日、理事会を開き、検討すべき課題はあるが、基本的に賛成することを全会一致で了承した。一方、日本麻酔科学会は4月28日に「このままの内容では賛同をすることができない」との見解を示し、実質的に反対を表明。これに対して日本産科婦人科学会は5月1日、現時点では第3次試案を受け入れ、さらに改善していくための要望事項を盛り込んだ見解を明らかにした。

● 日本内科学会・永井理事長 医療事故巡る混乱要因への立ち返りが重要

 日本内科学会の永井良三理事長(東京大教授)は理事会後、本紙の取材に対して、学会として第3次試案に対して基本的に賛成する決定を13の連携学会に示す考えを明らかにした。連携学会から回答が得られ次第、内科系学会連名で厚労省に意見書を提出する方針だ。

 永井理事長は、「第三次試案は検討すべき重要な課題がいくつかあるが、ただちに中立的第三者機関の設置に反対する理由にはならない」との考えを示した。

 特に、医療関連死が医師法21条に基づく警察への届け出の対象にされるという最高裁判決や、警察捜査の前に医療者が主体となって各事案を評価判定する公的機関が設置されていないことが大きな問題とし、そのため警察側の鑑定結果次第では、業務上過失致死および医師法21条違反に基づいて医師の逮捕という事態を招いてきたと説明。これを改善するには、医療関連死を届け出る中立的第三者機関である医療安全調査委員会(仮称)を設置し、警察の捜査に先行して、医療者が公的かつ主体的に事案を審査する体制が必要と話した。

 同理事長は、「第3次試案は、運用体制などで検討すべき課題は多いが、一歩、前に進む方がよい」と語った。

● 議論の論点整理が不十分

 実際に、評議員からの意見聴取では、反対する声もわずかだがあったという。永井理事長は、「論点が拡散しがちである。医師法21条の問題点や、これまで捜査前に医療者側が検証する場が存在しなかったという論点から議論すると理解が得られる場面も多かった」とし、第3次試案をめぐる議論の論点整理が十分とはいえない現状を指摘した。

 同学会理事会では、今後検討すべきいくつかの課題が指摘されている。その課題とは、まず「医療従事者などの関係者が地方委員会からの質問に答えることは強制されない」とした試案について、発言しなかったことが隠ぺいとみなされたり、発言内容を偽証とされない法的な配慮が必要という点だ。

 また、「地方委員会の判定が司法当局に尊重されることを明確にすることが必要」という意見もあった。さらに、第3次試案が一定の規模や機能をもつ病院に、事故調査委員会の設置と外部委員の参画を求めている点についても、事故発生後、直ちに外部委員の参加を前提として調査を開始することは現実的ではないとして、「当面は院内の調査委員会で調査を行える体制とすべきではないか」という意見もあったという。

 そのほか、医療安全調査委員会のシステムを円滑に運営するには、膨大な人材と経費が必要になることから、「十分な予算措置が行われることが必要」といった意見も含め、6項目が指摘されているという。

● 日本産科婦人科学会 現時点で条件付き賛成へ

 一方、日本産科婦人科学会は5月1日、第2次試案に対する見解で示した医療事故に対する刑事訴追に反対する見解は、今後も堅持していくとしている。しかし、その見解が、社会に受け入れられるには時間を要するとの現状分析を行い、現時点では、第3次試案を受け入れ、さらによい仕組み作りのために改善要望を強力に進めていく方向を選択した。

● 日本麻酔科学会 現時点で「賛同できず」を表明

 これに先駆け、日本麻酔科学会は4月28日、第3次試案が「原因究明と再発防止」を目的に、医療安全調査委員会の設立などを掲げている点については、患者遺族側だけでなく医療者側にとっても異論がないとし、一定の評価を示した。その上で、同学会では「第3次試案が、このまま法律で規定されるにはあまりに不透明な部分、あいまいな点、制度や法的な裏付けのない事項が存在する」とし、現時点で同試案に反対する見解を表明した。

 中でも同学会では、医師法21条において第2項を設け、医療関連死は安全調査委員会に届け出ることを明記するよう求めているほか、届け出や重大な過失に関する課題など5点について検討を重ねるよう問題提起している。

 こうした医学界の見解を、厚労省は最終的にどう判断していくのか注目される。厚労省関係者は、患者側がギリギリ譲歩した結果、集約できた第3次試案だと指摘し、「不明な点の明確化などは解決できるが、これ以上の具体的な譲歩は考えられない」との見方を提示。一部の学会が希望する第4次試案が提示されることは、現時点で厳しい環境にあることを示唆した。



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