我が子を想う母親の愛情は、交際相手の暴力によっていとも簡単に消失し、亡骸を遺棄するまでに変貌してしまうのだろうかーー。

　2006年9月、札幌市で起きた凄惨な虐待事件によって、当時3歳と4歳だった2人の女児の命が奪われた。

　交際相手の虐待によって我が子を失った元ソープ嬢・今野望美被告（26）は、こともあろうに我が子の遺体をクローゼットに隠匿したとして死体遺棄と保護責任者遺棄致死の罪に問われている。

　25日、今野被告の控訴審判決が、札幌高裁（矢村宏裁判長）で言い渡された。札幌高裁は、今野被告に懲役4年を宣告した一審・札幌地裁判決を支持、被告の控訴を棄却した。

　札幌市北区で夫と長女・星菜（せいな）ちゃん、次女・陽菜（ひな）ちゃんの4人で生活していた今野被告は、夫が給与を渡さずパチンコに興じ、育児もしなかったため、消費者金融から借金をして生活費に充てた。返済に窮した今野被告は保険の外交を辞め、ついには風俗店で働くようになった。
　
　今野被告は06年7月、客として知り合った稲見淳被告（31）と店外デートを重ねるうちに同居を求められ、同年8月10日、2人の娘を連れて家を出て、翌日から稲見被告が住む白石区のマンションで暮らし始めた。

　稲見被告は06年9月7日、白石区のマンションで、当時3歳だった陽菜ちゃんが腹筋をできなかったことに激昂、足を持って逆さ吊りにして振り回して死亡させた疑い、続く同月20日には当時4歳だった星菜ちゃんを風呂場で暴行、病院に連れて行かずに放置し、21時間後に死亡させたとして、殺人、傷害致死、死体遺棄、暴行罪で公判中の身。

　稲見被告は、2児の遺体を布団圧縮袋に入れてから、陽菜ちゃんの遺体をボストンバッグ、星菜ちゃんの遺体は段ボール箱にそれぞれ詰め、クローゼットに遺棄、今野被告も「バッグの口を開ける」「頭部を持って布団圧縮袋に入れる」など死体遺棄を手伝ったとして起訴された。

　事件は稲見被告の虐待によって2児が死亡した約1カ月後の9月23日、今野被告が中央区のホテルに駆け込んだことで発覚した。　

　昨年8月24日に開かれた一審の論告求刑公判で、検察官は「2人は真っ先に救ってくれるはずの被告人から放置され、助けもされず、その上、母親から段ボール箱や布団圧縮袋に入れられた。自らの暴行を避けるため、子どもが暴行を受けるのもやむを得ないと考え、極めて自己中心的」と断罪、今野被告に懲役7年を求刑した。

　同時に一審では、今野被告が稲見被告から常態的にＤＶ（ドメスティックバイオレンス）を受けていたことも明らかになった。

　一方、弁護人は（1）今野被告は稲見被告からのＤＶを回避するために従属していたので緊急避難が成立する、（2）ＤＶによって心神喪失あるいは心身耗弱状態にあった、（3）自首が成立する、として一審で無罪を主張した。

　07年10月3日の一審判決で札幌地裁の井上豊裁判長は、「被告人が稲見の求めに応じて行った行為は死体隠匿以外の何者でもない。わが子の遺体を1度ならず2度も遺棄した被告人の刑事責任は重大。被告は星菜が暴行を受けた後、稲見と買い物や動物病院に出かけており、その時に助けを求めることができた。被告人は母親でもあり、自己の身体に一定の危険を冒してでも、子どもの保護をすることが求められる」と死体遺棄と保護責任者遺棄致死を認定、今野被告に懲役4年を言い渡した。

　判決から2週間後の10月16日、今野被告は一審判決を不服として札幌高裁に控訴した。

　25日の控訴審判決公判で矢村裁判長は、「被告人は遺棄と死との間に因果関係がないとしているが、控訴には理由がない。長女は死亡するまで21時間生存しており、その間に救急車を呼ぶなどの適切な処置があれば生存していた可能性が認められるとした一審判決には合理的疑いがない」と述べ、控訴を棄却した。

　公判の最後に矢村裁判長から「あなたは稲見との関係では被害者だが、2人のお子さんにとっては間違いなく加害者です。それを忘れて欲しくない」と諭した。

　今野被告は力なく「はい」と答えた。