前回、改正独占禁止法での、不当廉売の課徴金強化などを紹介した。しかし、今回の改正で罰則強化よりも、大きな影響があると思われるのが、不当廉売などの不公正な取引の差し止め訴訟における「文書提出命令の特則の導入」が盛り込まれたことだ。
不当廉売(及びその他の差別対価といった不公正取引)の被害者は、不当廉売といった行為の禁止(差し止め請求)を裁判所に求める際に、不当廉売を行っていると考えられる企業に会計帳簿などの文書を提出するよう請求できるようになるのだ。
220条の壁を越える規定
これまで不当廉売の被害者が、独占禁止法に関わる民事訴訟で加害者への文書提出命令を申し立てても、認められない傾向が強かった。というのも、会社の内部で用いられることが目的となっている文書や、技術や企業秘密に関する事項が記載されている文書は、加害者であっても提出する義務を負わないという民事訴訟法の規定(220条)があるためだ。
しかし、改正独禁法の第83条の4では、正当な理由がある時を除いて、会計帳簿の提出の必要性を、裁判所が事前にその文書を見て判断することになるのだ。これによって、民訴法220条の規定があっても、該当する文書提出を拒むことができなくなる。
改正独禁法で、文書提出命令の特則の導入が大きなインパクトになるのは、被害者や公取が不当廉売を証明するのは、公表情報などを用いても立証するのが難しいからだ。
“損する”業種とそうでない業種の境目は
公取によって不当廉売として排除措置命令や警告が出されるのは、ガソリンスタンド、酒販業界などどこの会社でも卸値が大差ない業種では行いやすい。しかし、原価割れが容易に立証できない業種では、「やったもの勝ち」となるケースも多い。
原価割れ販売が立証しにくい例として、公共入札の落札価格や航空運賃、郵送料などがある。航空運賃では、2008年1月にスカイマークは、全日本空輸(ANA)9202が3月から導入する「羽田−千歳」「羽田−福岡」「羽田−那覇」の3路線が不当廉売に該当するなどとして、意見書を提出している。
また、郵便料金では、2004年にヤマト運輸は東京地方裁判所に日本郵政公社(現日本郵政傘下の日本郵便)が大手コンビニエンスストアのローソンと締結した郵便小包(ゆうパック)の取り扱い契約で、ローソンでのゆうパックの取扱料金を民間より低い料金で販売しているのは不当廉売に当たるとして、不公正取引の差し止め訴訟を提訴した。東京地裁は2006年にヤマトの請求を棄却し、2007年に下された控訴審判決でもヤマトは敗訴、現在は上告審の段階に進んでいる。
スカイマークやヤマトの請求が認められるかは、商品の供給に必要とされている費用の算定がカギとなる。
容易ではない総販売原価の算定
独禁法では、違法な不当廉売に当たるとする要件として
(1)供給に要する費用を著しく下回る対価で、
(2)継続して、
(3)他の事業者の事業活動を困難にする恐れがあり、
(4)正当な理由がない、
ことと規定されている。