緊急リポート:「国立」病院廃止の深層 (完)
〜(後編)問われる新型インフル対策
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(前編)縮小する「政策医療」
■断ち切られる病診連携 「横浜市として、なくなったら困る。何とかしてほしい」―。南横浜病院の廃止に対し、横浜市の担当課長は不安を隠せない。
市は4月8日付けで、独立行政法人国立病院機構に対し「市内における適切な結核医療体制の確保を図るため、特段の注意を払うよう要請する」との要望書を提出したが、先行きは不透明だ。
同市によると、南横浜病院の廃止問題について同機構と協議を開始したのは昨年末。
話し合いを重ねる中で、市側は結核医療を専門とする同病院の役割を強調。再三にわたり廃止取りやめを申し入れたが、同機構は「神奈川県全体に結核患者があふれることはない。秦野市にある神奈川病院で吸収できるから大丈夫」と説明したという。
市の担当者は「理屈は分かるが、南横浜病院の患者が神奈川病院に行くには遠過ぎる」とこぼす。横浜市から秦野市まで直線距離で約45キロ、急行電車で約1時間かかる。転院する患者の負担面だけでなく、横浜市の感染症対策に与える影響も大きい。
同市によると、市内で発生する結核患者(年間約800人)のうち、およそ半数が南横浜病院に入院。特に、日雇い労働者のための簡易宿泊所が多い中区の寿町には、結核の罹患(りかん)者が多いため、市は1999年度から寿町への服薬支援事業を展開している。その中心的な役割を果たしてきたのが、同病院と寿町の診療所との「病診連携」だった。
市が懸念するのは、同病院の廃止によって「病診連携」が断ち切られ、減少傾向にある結核罹患率が増加に転じること。しかし、それ以上に深刻なのは、新型インフルエンザが発生した場合の対応だ。
■心配される“地域格差”
同市は新型インフルエンザ発生時の行動計画の中で、同病院の役割を重要視している。具体的には、新型インフルエンザの感染患者を第一次的に横浜市立市民病院に受け入れてもらい、そのベッドが満床になったら南横浜病院が受け入れるという計画だが、市民病院に結核病床はなく、感染症患者のための病床はわずか26床。感染症の病原体を院外に拡散させない「陰圧病床」を有する南横浜病院が廃止された場合、新型インフルエンザ対策に必要な体制を取れるのだろうか―。
市の担当者は「採算が合わないので、多額の費用を掛けて新たに結核病床をつくる病院があるとは考えにくい。できれば南横浜病院を残していただきたい」と話す。
神奈川県の受け止め方はどうか。県の担当者は「感染症指定医療機関は県内に8か所しかないので、これでは足りなくなる」と困惑している。「排菌が継続している結核患者が入院する病院がないと困る。機構は県内全域での病院数の過不足を判断し、神奈川病院で患者を吸収できるとみているようだが、地域間の偏りが出ないか心配だ」
■ 廃止に反対の署名活動も
南横浜病院の近隣の自治会では、廃止に反対する署名活動も始まった。「新型インフルエンザが大発生したら、この地区では対応できなくなる。南横浜病院以外に空きベッドはないのではないか。この状況をどう考えているのか」と、地元の自治会長は語気を強める。
「以前、南横浜病院が経営に苦しんでいた時、“守る会”をつくって地域住民が活動したことがあった。独立行政法人化されるまでは、病院と地域が交流する『健康まつり』を毎年開催し、2003年には約6000人が参加した。地域住民として黙っているわけにはいかない」
「結核は国民病」という時代が終わったとはいえ、結核に代わる感染症への対策が終わったわけではない。「医療は国民の安全保障」ともいわれる。不採算を理由に「政策医療」を廃したとき、残るのは「格差医療」だろうか。企業経営と同様の経済原理だけで医療を論じていいのか、国の対応が今、問われている。
更新:2008/05/06 01:57 キャリアブレイン
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