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国産野菜:増産か我慢か 先行き不安の農家苦悩

 中国製冷凍ギョーザによる中毒事件発覚後の国産野菜の不足と高騰は、需要を目の前にしても生産増に応じきれない日本農業の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。担い手の高齢化や需要の先行きが読めないことが背景にあるが、安い輸入品に対抗するために進めてきた顧客の囲い込み、高付加価値化の取り組みが、逆に増産の足かせになっている面もある。中国産の激減で、食材を使う側の外食産業や食品加工業者の右往左往も続いており、生産、消費それぞれの現場で混乱が深まっている。【坂井隆之、行友弥】

 ◇「顧客との関係が…」ニンニク栽培の青森・田子

 ニンニク出荷量で全国の約8割を占める青森県。中でも田子(たっこ)町のニンニクは品質の良さで全国的に有名だ。

 地元卸売市場で取引されるニンニクの最高値は1月は1キロあたり2100円だったが、ギョーザ事件をきっかけに急騰。4月には3700円をつけた。

 「一部の組合員が農協を通さず、市場に直接出荷するようになった」とこぼすのは、田子町農協にんにく課の新井田文雄係長(49)だ。同農協は農家の経営安定のため「固定客」を重視。形式上は全農(全国農業協同組合連合会)や首都圏の卸売市場を通すが、実際は年間を通じて特定の顧客に決まった価格で売る契約栽培に近い方式だ。それが「市場に出せば農協の倍の値で売れる」(地元農家)ようになり、浮足立つ農家も現れた。

 6~7月には今年産の収穫も始まるが、販路や価格はほぼ決まっている。目先の利益を追って顧客との約束を破れば、せっかく築き上げてきた信頼関係が崩れる。農協にとって今の高値はむしろ頭痛の種になっている。

 一方、今秋の増産には消極的な農家が多い。約1.5ヘクタールのニンニク畑を持つ田沼誠一さん(58)は「面積を広げるには人を雇う必要があるし、新しい畑は1、2年はいいものが取れない」と話す。種子を買えば10アールあたり60万~70万円かかるなどコストも大きい。

 安い中国産に押され、90年代に一時、1キロ300円台にまで値下がりしたニンニク。最盛期に500戸以上あった田子町のニンニク農家も約230戸に激減した。その経験から得た答えが、高品質のものを固定客に売る現在の手法だ。「高値は長続きしない。中国産が減っても、いずれ別の国から入ってくる」(田沼さん)という警戒感が、農家の慎重姿勢の根底にある。

 ◇「ブランド化の好機」サトイモ栽培の千葉・成田

 サトイモの生産量日本一の千葉県。成田市の大木博之さん(47)は、ジャガイモほどの大きさの新品種「ちば丸」の種芋を手に「産地をもう一度作り上げていく最高のチャンス」と力説する。ちば丸は県が10年がかりで開発し、今秋から本格出荷される。中国産の攻勢に苦しんできた生産者が悲願とするブランド確立への第一歩だ。

 大木さんは一度、サトイモ作りを断念している。中国産の輸入急増に加え、皮がむきにくいことなどが敬遠されて消費も低迷、価格が下落した。04年ごろまでには地元集落のサトイモ農家はすべてサツマイモなどに転作した。

 ちば丸は形が丸く皮がむきやすく、ぬめりの少ない食感が「若者の口に合う」(千葉県生産販売振興課)という。昨秋収穫した芋を今年1、2月に試験販売したところ、東京都中央卸売市場の価格(1キロ=260~280円)を大きく上回る300~600円の値がついた。今秋の収穫分は作付け前から引き合いが始まり、既に完売状態だという。

 だが、大木さんらは「極端な品薄の中、ちば丸だからというより、国産ほしさに飛びついただけという可能性もある」と慎重だ。さらに「中国産の輸入量が再び急増しないとも限らない。それでもブランド力で負けないよう腰を据えてやらないと」と付け加えた。サトイモ産地の再生は、今の追い風に乗るだけではおぼつかないと考えるからだ。

毎日新聞 2008年5月5日 21時50分(最終更新 5月5日 22時43分)

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