大分県別府市の山あいに、シイタケ栽培用の「ほだ木」約10万本が木漏れ日を浴びて並ぶ。シイタケ農家の田中信行さん(59)は「今年は勝負」とみて、増産の準備に忙しい。
今年1月に発覚した中国製冷凍ギョーザによる中毒事件のあおりで中国産シイタケの輸入が急減し、県産乾(ほし)シイタケ相場は1月末の1キロ4957円が4月上旬には5569円に上昇した。2500円台まで落ちた99~01年の水準から見れば2倍以上。全国一の乾シイタケ産地、大分県にとって、中国産に反転攻勢をかけるまたとない好機だ。
だが、原木を切り出し、収穫するまで約2年かかる。もうかるかはその時の相場動向次第。予想が外れた時のことを考えれば、工場のように人を雇ってまで増産するのは難しい。年間3トン前後の生産量を誇る県内トップクラスの栽培農家の田中さんでも「家族経営だからやっていける」といい、増産は10%強が限度という。
90年代から急増した中国産の輸入量は、残留農薬問題などの影響で04年以降、減少に転じた。県椎茸(しいたけ)農業協同組合は「国産復権のチャンス」と増産を奨励している。県も08年度から、異業種の企業が農業法人を設立すれば、設備投資費用を最大75%助成する支援策を打ち出した。公共事業削減で経営が苦しくなった建設会社が、廃校となった小学校のグラウンドで栽培を始めるなどの動きも出始めている。
とはいえ、県内の栽培農家の平均年齢は68歳。酪農や他の畑作との複合経営も多いため、シイタケ増産の余力に乏しく、08年の植菌数(植え付けた菌の数)は、昨年比10%増にとどまる。「国産志向」の追い風を産地はまだ生かしきれていない。【後藤逸郎】
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中国製冷凍ギョーザによる中毒事件をきっかけに中国産野菜の輸入が減り、国産野菜の需要が高まっている。安い中国産に押されてきた国内産地には思わぬ特需だが、高齢化、後継者難などに悩む農家からは、戸惑いの声も漏れる。突然の「国産回帰」に揺れる産地の実情を探った。
毎日新聞 2008年5月5日 21時37分