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神谷秀樹の「日米企業往来」

「経理の松下」とサブプライムの教訓

 米シティグループ、スイスのUBSなど多くの金融機関が発表した最近の四半期決算では、巨額の不良資産の償却が計上された。これほど巨額の不良債権が、なぜ生まれたのか考えてみた結果、たどり着いた結論は、「人を見ない金融」に尽きる。

 日本でも消費者金融が無人機によって普及し、審査はもっぱら全信連のデータに頼るようになっているが、米国でもクレジットカードは書類だけでの申し込みによってなされる。住宅ローンの申し込みも、モ−ゲージブローカーという融資受け付けだけをする人、もしくはインターネットによる申し込みでなされ、貸出人となる金融機関の人と面談することはない。どちらも、金融機関は「会ったこともない人」に貸し付けているわけだ。

担保は見ても、担保の保有者は見ない

 商業用の不動産金融をはじめ、「資産ベースの融資」と言われる金融は、担保となる資産の価値だけを見て行われ、その資産を所有している人物、または企業の審査はほとんどなされない。「物を見て人を見ず」の金融である。

 機関投資家の多くは、証券化された商品、言い換えると債券を購入するが、この場合はほとんどの場合「格付けを鵜呑み」にしていて、自ら発行者の審査には出向かない。それでは格付け機関が発行者を確実に審査しているかと言うと、「勝手格付け」と言うように、発行者に依頼され、発行者の経営陣と面談し、十分な調査をしたうえで格付けするのではなく、「対外公表されている資料だけ」で行われることもある。

 融資が「証券化」され、返済期限まで保有し続けるものではなくなったことが、大きな変化の原因となっている。貸した金が「返済されて何ぼ」という過去の世界から、融資したものも証券として売ってしまえば、返済されようがされまいが、それは自分の知ったことではないという世界に変わった。証券は、金利を支払ってもらい、元本を返済してもらって「何ぼ」の商品ではなく、「市場で売買して儲ける商品」なのだ。

バンカーよりトレーダー

 こうした融資という商品の性格の変化から、銀行の頭取、社長となる人の経歴も大きく変わってきた。長年貸し付けを担当し、経営者の人物を見ることに長けた人などは、最近ではなかなか頭取に選ばれない。欧米の銀行では、こうしたコーポレートファイナンスの専門家(「バンカー」と呼ばれる人)に代わって、トレーダー上がりの人が、のし上がってきている。

 彼らは基本的にはスクリーンの上で、国債や社債を何十億ドルという単位で相場を張り、儲けてきた人々で、「人を見て貸す」というような業務からはほど遠い仕事をしてきた人々だ。安く買って、高く売る。もしくは借りてきた証券を高値で売って、価格が低下したところで買い戻して返済する、というのを基本的な飯の種にしてきた人である。大きく張って儲けた人が、絶対的に大きな収益を上げた人として評価される。

 あなたが人にお金を貸すとしたら、あなたはどうするだろうか。「この人は一体お金を返してくれるのだろうか。返す意思はあるのか。意思があるとして、どのようにして返済するのか。返す当ては何なのか。そもそも、このお金を何に使うのか」というように、審査するだろう。

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このコラムについて

神谷秀樹の「日米企業往来」

日米の巨大金融機関で勤務した後に、顧客と投資家と投資銀行家の3者の利害が一致する投資銀行を実現したいと一人で投資銀行を設立した筆者。日米の企業風土や人生の価値観などを指摘する。

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著者プロフィール

神谷 秀樹(みたに・ひでき)
ロバーツ・ミタニLLC創業者兼マネージング・ディレクター

神谷秀樹

1953年東京都生まれ。小学校時代をタイで過ごし、75年早稲田大学政経学部経済学科卒業後、住友銀行入行。ブラジル・ミナス・ジェライス連邦大学留学を経て、84年ゴールドマン・サックス証券に移籍。92年に日本人では初めて米国で投資銀行の「ミタニ&カンパニー・インク」を設立、95年に「ロバーツ・ミタニLLC」に社名変更。米国在住。著書に『ニューヨーク流 たった5人の「大きな会社」』(亜紀書房)。これまでに大阪府海外アドバイザー、フランス国立ポンゼショセ大学国際経営大学院客員教授などを兼務。

(写真:丸本 孝彦)

ロバーツ・ミタニLLCのサイトはこちら

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