そして返せないようなお金は貸さないようにする。使途が間違っていると思えば、「そんな金の使い方はするな」と諭す。金融とは本来同じものである。ところが現代の金融からは、上記の通り「人」という要素が消えてしまった。
融資を断られた松下の財務部長が受けた助言
松下電器産業6752の創業期に財務部長を務めた方の話を伺ったことがある。商売が伸び、運転資金を必要とするので、住友銀行(現三井住友銀行)8316に借りに行った。支店長は会社の財務諸表を見て、「あんたのところは売掛金が多すぎる。明日から5時を過ぎたら全社員で売掛金の回収に当たりなさい。そうすれば借金などしないで済む」と言われたそうだ。
財務部長は会社に戻ると、さっそく支店長の指示を社員に実行させた。当時の社長は創業者の松下幸之助さん。幸之助社長の奥様は、毎晩、売掛金を回収し終えて帰ってくる社員のために、味噌汁を作って待っていたという。
こうした日々が続き、数カ月したある日、売掛金はすっかり減り、本当に借金しなくてよいようになった。財務部長はそのことを銀行支店長に報告し、礼を述べた。それからしばらくたってから、松下は工場の建設資金を必要とすることになった。同じ支店長に借金の申し入れに行くと、その支店長はその場で了承したという。
顧客とバンカーとの関係がこのようなものであれば、不良債権など生まれないのである。現代の金融と過去の金融。どちらが正しい金融の在り方なのかは、素人でも分かろう。