進歩するエイズの治療薬。死に直結する病気ではなくなった半面、年齢を重ねた感染者、患者の生活が新たな課題になっている
県内で暮らすエイズウイルス(HIV)感染者とエイズ患者の少なくとも6人が、社会福祉施設での生活が適当なのに4月下旬時点で入所できないでいることが、5日までに分かった。うち3人は入所を打診したが断られ、残りの3人は本人や家族がちゅうちょするなどし施設側との交渉に至っていない。
医療の進歩で、HIVに感染しても発症を遅らせたり、エイズを発症しても進行を抑えたりできるようになった。しかし、エイズに対する偏見や、偏見を気にする風潮はなくなっておらず、年齢を重ねた感染者や患者が安らかに暮らせる仕組みは整っていないのが現状だ。
信濃毎日新聞は4月下旬、県内に8カ所あるエイズ治療拠点病院に、高齢者や障害者を対象にした施設の入所が必要な感染者や患者がいるかを問い合わせた。その結果、入院や在宅の中高年計6人が該当するとの回答を得た。
医師らは、施設入所に至っていない理由として、施設側が病気自体を恐れて正しい知識が共有されていない、患者自身が偏見を恐れて施設暮らしに抵抗がある−などを指摘。薬剤が高価で、年間数100万円にもなる医療費を施設側が負担しなければならない場合も考えて、経営面から敬遠することもあるという。
県は、円滑に施設入所しにくい状況を承知しながらも詳しい実態はつかんでおらず、「なんらかの対策が必要」(健康づくり支援課)とする。県内の複数の医師は、進む社会の高齢化を見据えながら、感染者や患者を受け入れる新たな枠組みづくりが今後必要になる−と指摘している。
国立病院機構東京病院(東京)の永井英明・呼吸器科医長らが2005年9月から06年1月に行った全国調査によると、回答した76%の施設が「受け入れを考えていない」と門を閉ざしていた。県医師会エイズ等感染症対策委員会委員長で、県立須坂病院(須坂市)の斉藤博院長は「足元からじわりと広がりつつある問題。今後も問題の深刻化が予想され、対策が急務だ」としている。
県衛生部によると、県内で昨年報告された新規のHIV感染者とエイズ患者は計15人で、調査を始めた1989年からの累計は394人。2004−06年の年間平均でみると、人口10万人当たりの報告数は1・305人で、長野県は、東京都、大阪府に次いで多い。