ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]赤澤史朗> 記事 書評 創氏改名 日本の朝鮮支配の中で [著]水野直樹[掲載]2008年05月04日 ■同化政策に差異を残したチグハグ 誰でも自分の名前にはこだわりがある。ところが行政当局から突然、半年以内に新しい名前を届け出ろ、今後それを本名にするといわれても、当人は納得しにくいし、知り合いが誰さんなのかも分からなくなり、大混乱に陥るだろう。しかし創氏改名は、それを強行する政策だった。 名前の付け方は、それぞれの国と民族の家族制度によって決められるものだ。韓国・朝鮮人の場合は、夫の姓と妻の姓が違っている。妻は結婚しても、出身の実家の姓を変えないからである。 こうした習慣の朝鮮人に、日本人と同じように夫婦に共通する家の称号である氏を新たに作らせ、それを本名にする政策が「創氏」であった。それは朝鮮の家族制度の力を弱め、日本の「イエ」制度を朝鮮に導入するものだった。ついでに下の名前も、日本人風に変えるのが「改名」である。 本書は、創氏改名の矛盾に満ちた実態を叙述したものである。そこでは創氏は義務の届け出制で、朝鮮総督府をあげて督励し強要されたが、改名は当局の許可制で途中から奨励されなくなった。 そのため多くの朝鮮人は、創氏の届け出はしたが改名はせず、日本人風の氏と朝鮮人風の名を持つ、日本人に似ていながら日本人との違いが目立つ名前になってしまった。朝鮮人の姓に由来する、日本人には見かけない氏も創(つく)られた。それは日本への同化政策でありながら、完全な同化はさせないで、日本人との差異を残すものだった。日本人の中には朝鮮人への優越意識から、朝鮮人を日本人と同じ氏名とすることに反発する動きがあり、これが実施過程で影響したようだ。 著者は創氏改名が、朝鮮社会の家族制度を総督府が力づくで変えられると思い込んだ地点に生まれたと指摘している。でもそれは朝鮮人の反感や面従腹背の態度とともに、一部の日本人の反発も呼んだのである。強権的でありながら、どこか首尾一貫しないチグハグな創氏改名の実情を明らかにすることで、単純に同化政策とばかりはいえない、日本の支配の論理の特徴を考えさせる労作だ。
ここから広告です 広告終わり 書評 バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり 売れ筋ランキングコラム
|