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【東亜春秋】編集委員・山本勲 江沢民路線と決別せよ
胡錦濤(こきんとう)国家主席が今日から5日間、中国の国家元首としては10年ぶりに日本を訪問する。日中関係は1990年代半ばから悪化の一途をたどったが、胡錦濤政権のもとでようやく首脳の相互往来を再開するところまできた。事前の折衝からは具体的成果の乏しい訪日となりそうだが、胡主席には両国関係悪化の主因である江沢民(こうたくみん)路線との決別を、日本国民にはっきり示してもらいたい。それだけでも大きな意義がある。
昨年末の福田康夫首相訪中では胡錦濤主席の「桜咲くころの訪日」で合意した。ところが、毒入りギョーザ事件にチベット騒乱が重なり新緑の訪日となった。ギョーザ事件の真相究明や東シナ海ガス田の共同開発でも進展がみられず、今回の訪日で大きな成果は望めない。日本国内はさめている。
それでも胡主席訪日を有意義なものにすることは可能だ。何よりもまず、江沢民前主席の反日民族主義路線との決別を言葉と態度で日本国民に明確に示すことだ。
何しろ10年前の江沢民訪日は最悪だった。日本を訪れた外国首脳であれほど傲慢(ごうまん)無礼に振る舞った人物はいまい。過去の歴史で執拗(しつよう)に日本の謝罪を求め、共同宣言の署名を拒み、天皇陛下への礼を欠いた。日中国交正常化に尽力した多くの親中派人士でさえ、憤激したほどだった。
江氏のより大きな罪は90年代半ばから、「愛国主義」という名の反日民族主義路線を大々的に推進したことにある。
中国のマスメディアを総動員して「日本軍国主義の侵略戦争の罪」を激しく執拗に糾弾、「共産党こそが抗日戦争を勝利に導いた」との、半ば偽りの教育宣伝活動を展開した(抗日戦争の主力は蒋介石(しょうかいせき)率いる国民党軍だった)。
日本軍の残虐行為をことさらに強調する歴史教科書を作成し、教師に対しても「日本帝国主義に対する大きな恨みを生徒の心にしっかり刻み込む」(教師用指導書)よう求めた。
江氏は中華民族主義を鼓吹し、共産党政権への国民の不満を日本に転嫁することで長期政権を維持することに成功した。しかし、それが本当に中国のためになったかは大いに疑問がある。
江沢民政権の登場以来、日中関係はつるべ落としに悪化した。小泉政権時には中国各地で大規模な反日暴動が続発し、両国関係は一触即発の状態に陥った。今もその傷跡は癒えていない。
加えて江政権の民族主義路線は国内の民族対立を激化させた。今回のチベット騒乱や、新疆ウイグル自治区におけるテロの頻発が端的に示す通りだ。
漢民族の被害者としての側面ばかりを強調する偏った歴史教育は、一連の聖火リレー騒ぎで露呈したような排外的民族主義を培養した。それは周りの国から脅威視されると同時に、共産党政権にとっても制御が難しい巨大な“モンスター”となりつつある。
前任者とは違い、胡錦濤主席が「一貫して中日関係を最も重要な二国関係と位置づけ発展に努力してきた」ことは評価できるが、もっと踏み込んでもらいたい。
日本への「大きな恨みを刻み込む」江沢民時代の教育を根本から改めてほしい。昨年12月に大幅拡張した南京大虐殺記念館では、日本軍の残虐性を強調する写真やパネルが大量に加わった。江氏の後押しによるともされるが、こんなことが続く限り隣国や他民族との和解は望みがたいからである。(やまもと・いさお)