旧約聖書には、ノアの箱舟の物語が記されている。
この世の創造者である神は、まずアダムとイブを地上へ送り出した。だが、その後、増え続けたアダムとイブの子孫たちは次第に悪行を重ねるようになり、神はこの様子を憂い、人類を破滅させようと考えた。が、神は、信心深い老人ノアと彼の家族だけは救済するとして、彼に大洪水の襲来を予告した。同時に、神はノアに対し、この洪水から身を守るための箱舟の建設を命じた。 ノアはこのことをほかの人間たちにも伝えたが、誰も本気で彼の話に耳を傾ける者はいなかった。結局、ノアは家族8人だけで箱舟作りにはげんだ。 彼らの懸命な努力の末、ようやく箱舟は完成したが、箱舟の収容人数には限りがあった。その後、この舟に誰を、どれだけ乗せるかは、ノアを大いに悩ませたが、洪水が起こる直前、どこからともなく多くの動物たちがつがいで箱舟に乗り込みはじめ、結局、箱舟には彼の家族8人と、多くの種類の動物たちが乗ることになった。 こうして、収容人数に限りのある箱舟に、定員ぴったりの動物たちが乗ることができたのは、ノア自身の選抜ではなく、あくまで神の裁量だと思われる。が、それにしても、この舟に乗る動物たちの選抜には神も悩んだことだろう。でも、神がこの動物たちの選抜の基準をどこに置いたかは、定かではない。 行政の責任は極めて重大 このノアの箱舟の大洪水から数千年たったとされる現在、地上は、またも神が憂うような状態にも似た、新型の鳥インフルエンザの恐怖におののいている。 報道によると、政府はその鳥インフルエンザ対策の一環として、ワクチンを検疫担当者や医療関係者ら6000人に事前接種することを決めた。 このワクチンは、鳥インフルエンザ(H5N1型)ウイルスから作られたものだが、突然変異で出現する新型ウイルスには、残念ながら効果が未知数ではある。だが、新型が発生、流行してからのワクチン製造では、物理的にも、時間的にも制約があり、新型ウイルスには対応できない。 1000万人のワクチン接種対象者にあなたは選ばれるか?(写真はベトナムでの鳥インフルエンザワクチン臨床試験の様子、ロイター) 政府の計画によると、このワクチンの臨床試験のために6000人へ接種し、安全性や有効性が確認されれば、さらに1000万人に接種するという。国民の約12人に1人が接種を受けられる勘定になる。 1000万人の選抜基準が問題となるが、この際の混乱を収めるために、厚労省はあらかじめこのワクチンの接種対象者を示すガイドラインを設けた。 これによると、同ワクチン接種を優先される対象者は、医療・救急関係者などの医療関係者や、消防・警察・自衛隊などの治安維持関係者、さらに電気・水道などのライフライン関係者、議員・首長・公務員などの国・自治体関係者のほか、情報・通信や輸送関係者などと明示されている。 ガイドラインには、限られたワクチンの本数もあり、接種する対象者の優先順位が明記されているわけだ。角度を変えてみれば、事前接種する1000 万人以外は優先順位が低いということになる。実際の人選の際には相当の混乱が予想されるだろう。それだけに人選にあたる行政の責任は極めて重大だ。 もちろん、行政は公務員が動かしているのだが、昨今、その公務員の評判が決してかんばしくない。だが、そのガイドラインが示すワクチン事前接種の優先順位には、検疫担当者や医療関係者などと並んで、国や自治体の公務員が明記されている。 新型インフルエンザの恐怖から見れば、国を挙げての対策が必要になるのは言うまでもない。その際、対策の最前線に立つのは公務員で、その意味でこのガイドラインは基本的に正しい。 ただ、その際には後期高齢者医療保険、国民年金や血液製剤、薬害肝炎などで国民の生命や生活を軽んじてきた厚労省、道路財源の荒唐無稽(むけい)な無駄遣いが発覚した国交省やその公益法人。さらには、冤罪(えんざい)事件や捜査費問題などで国民から信頼が揺らいでいる警察関係、イージス艦衝突事故などに象徴される、組織的な不祥事が目立つ防衛省……。本来、優先してリストアップされるべき行政機関の職員が機械的にそのリストに載ることに対して、国民として少なからず抵抗があるといったら、不謹慎だろうか。 果たして、行政は神のような人選を行うことができるだろうか。
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