県の少子化対策事業「紀州3人っこ施策」が、一部の自治体に導入を拒まれ、多くの県民がサービスを受けられないままとなっている。第3子以降の妊婦健診や保育料を無料化することで、「もう1人」と考える夫婦を応援する事業。仁坂吉伸知事が掲げる子育て支援策の目玉だが、自治体間の格差が広がり、居住地によっては3人目の出産・育児に前向きな住民も、蚊帳の外に放置されている状態だ。【加藤明子】
県内の出生数は昨年まで10年連続で減少。1人の女性が一生に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1・34(06年)で、人口維持に必要な2・08を大きく下回っている。このため県は07年度、3人以上を産み育てようとする家庭に対する支援に乗り出した。
出産前の妊婦健診は健康保険の適用対象外で、毎月1、2回、各5000~1万5000円かかる。そこで、第3子以降についてはこの費用を最大8万1000円まで助成し、原則として自己負担なしとする。同時に児童1人分の一時預かりを無料化。さらに今年度、第3子からは3歳未満の保育料を免除する事業も始めた。
しかし、県は費用の半分だけを助成し、残りは市町村が負担する仕組み。財政難の自治体は実施を見送った。導入したのは県内30市町村のうち、妊婦健診29市町村、一時預かり8市町、保育料15市町村にとどまっている。
第3子以降の0~2歳児は県内に約900人。うち約350人が集中する和歌山市は、いずれも実施していない。同市の出生数は70年の7434人をピークに減り続け、07年は2993人と6割減だが、無料化するには妊婦健診で約3250万円、保育料で約8000万円が必要となる見込み。市は「財政事情を考えれば新たな出費は難しい。県が全額負担するなら賛成だが」と説明する。
第2子を10月末に出産予定という同市の女性(31)は「本当は3人ほしい。ただ、その思いだけでは産めない」と嘆く。認可保育所に毎月6万3000円の保育料を支払っている別の女性(44)は「これでは貯蓄もできない。3人目を産むなら引っ越しも検討する」と憤る。
一方、海南市はいずれの制度も導入した。市子育て推進課は「県の3人っこ施策は所得制限がないのが魅力。高所得の家庭にとっても朗報なので、少子化対策には有効だ」と評価する。市内で中学生と小学生、1歳の男児を育てる30代前半の女性は今春、第3子を保育所に預けた。保育料は無料だ。「2歳までは保育料が高いので利用を控えていたが、やっと仕事に戻れる」と喜ぶ。
県子ども未来課は「人口の多い市が賛同してくれなければ、事業を軌道に乗せるのは難しい」として、未実施の自治体に協力要請を続ける方針。しかし、自治体の担当者の間には「それならなぜ1人目や2人目を産んでもらうための支援策を充実させないのか」と批判する声もある。少子化対策のアイデアは「案ずるより産むがやすし」とはいかないようだ。
毎日新聞 2008年5月6日 地方版