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「この国はおれに合わねぇ!」 明るい少年が“女性の天敵”に変わるまで

5月6日12時33分配信 産経新聞


 福岡市早良区の早良警察署の裏口に姿を見せた男は、眼光鋭く報道陣をにらみつけ、そして笑った。福岡市の女性刺殺事件で強盗殺人などの容疑で逮捕された同市中央区の無職、野地卓容疑者(22)。明るく活発な少年だったが、高校退学後はアルバイトを転々とし、「この国はおれに合わねぇ!」と社会への鬱憤(うっぷん)を吐き出すことも。最近では奇行が目立ち、その果てにか弱い女性を狙って、執拗にナイフを突きつけた。送検される時の野地容疑者の目には“狂気”が宿っていた。

 ■「おい、ばばあ、金を出せ」…断られ、十数カ所を刺す執拗さ

 早良署捜査本部の調べによると、事件の概要はこうだ。

 「おい、ばばあ、金を出せ」

 4月14日午後7時ごろ、福岡市早良区西新2丁目の住宅街で、自宅アパートを目の前にした田中久子さん(78)に野地容疑者が詰め寄った。
 手には刃渡り約10センチの果物ナイフ。
 田中さんが助けを求めて騒いだ瞬間、野地容疑者は田中さんの首や胸など十数カ所を刺したり、切りつけたりした。
 胸の傷は肺に達する深さで、田中さんはほぼ即死状態だった。
 騒ぎを聞きつけたアパートの男性住民が、野地容疑者をいったん羽交い締めにしたが、容疑者はこれを振り払い、刃物を持ったまま逃走した。
 捜査本部は目撃情報などから似顔絵を作成した。すると、現場から南に約700メートル離れた同市城南区で3月25日、女性がナイフで刺され重傷を負った事件の容疑者の似顔絵とそっくりであることが分かった。
 あごがとがり、目が細く切れ長という特徴が一致していた。
 3月25日の事件の発生時刻は午後6時半ごろ。城南区鳥飼4丁目の建設会社社員寮の敷地内で、歩いてきた男が女性会社員(31)に向かって「お金」と口走り、女性が悲鳴を上げると、いきなりナイフで腹など4カ所を刺した。腹の傷は胃に達していた。

 2つの事件は、(1)発生時間や現場が近い(2)金を要求している(3)ナイフを何度も深く突き立てており、強盗目的にしては攻撃が執拗−という手口も似ていた。
 捜査本部は同一犯による犯行とみて捜査。田中さん刺殺事件の現場に放置されていた盗難自転車に付いていた指紋が野地容疑者のものと一致したことなどから、15日夜、田中さんに対する強盗殺人などの容疑で逮捕した。

 ■アイスピックを持つ…「第3の犯行」を計画?

 調べに対し、野地容疑者は田中さん刺殺事件について「間違いありません」と容疑を認めた。
 女性会社員への犯行についても「自分がやった」と話した上で、無差別殺人だったことを認める供述をしている。

 「3月に女性を襲ったが、抵抗されて金を奪えず、次はもっと弱い人にしようと、高齢の女性を狙った」

 「路地でたまたま見かけたおばあさんを襲った」

 供述から、自分より弱い女性を狙った卑劣な犯行であることは明らかだ。犯行の動機については「金がなく、生活が苦しかった。金目当てだった」と供述した。捜査本部は野地容疑者が生活費に困った末の犯行とみている。
 連続して起こった無差別殺傷事件。周辺住民の中には被害に遭わないように外出を控える人も多く、野地容疑者の逮捕で安堵(あんど)が広がった。近くの主婦は「これで一安心。ゆっくり眠れます」とほっとした表情を浮かべていた。
 実際、野地容疑者は逮捕される直前の15日、福岡市中央区の自宅マンションを出た際、アイスピックを隠し持っていた。任意同行しようと捜査員が野地容疑者に声をかけ、所持品を調べる中で発見した。
 野地容疑者は「護身用」と捜査員に説明したが、2件の犯行ではいずれも金を奪うことができず、「第3の凶行」を企てていた疑いも出ている。

 ■思春期にいったい何が? 失われていく明るさ

 「中学生のころは明るい性格で、おもしろい子だった。友達もたくさんいた」

 小中学校の同級生がこう証言する野地少年は当時、福岡市城南区のマンション1室(約70平方メートル)で母と兄、姉と暮らしていた。普通の活発な少年という印象だ。

 ところが、高校生になる前後から、彼は変わり始める。家族に反抗することが多くなり、不良グループにも顔を出すようになった。市内の私立高校に入学したが、1カ月で退学。高校によると、出席したのはわずか13日間で、学習意欲がなかったほか、家庭の経済的な事情も退学の引き金になったという。

 「明るい性格だが、多少自己主張が強い」

 高校に残る指導要録にはそう記されていた。
 岡山市のJR岡山駅ホームから岡山県職員の男性=当時(38)=を線路に突き落とし、殺害した18歳の少年=大阪府大東区=と「貧乏」という点では境遇が似ている。少年は貧乏から大学進学をあきらめていた。くしくも、野地容疑者が女性会社員を刺した3月25日は、少年の犯行日と同一だった。
 高校退学後はアルバイトを転々とした。コンビニエンスストア店員、ホテルの宴会場でウエーター、ガソリンスタンド店員…。しかし、人とのコミュニケーションがうまくできず、長続きする仕事はなかった。平成17年夏には東海地方のレジャー施設で住み込みのプール監視員をした。

 「客にきちんと声をかけられず、仕事はできなかった。キョロキョロして、人と目を合わせない感じだった」

 一緒に働いていた男性は当時をこう振り返る。
 その半年後の18年3月、福岡市中央区のマンション4階の1室で一人暮らしを始めた。間取りは1K(約20平方メートル)で家賃は月3万5000円。このころはまだ、仕事仲間と酒を飲むこともあり、当時の写真からも、持ち前の明るさは完全に失われていないように見える。
 ただ、酒に酔うと、社会に対して鬱憤がたまっていることをうかがわせるような言葉も口にした。

 「この国はおれに合わねぇ」

 「インドに修行に行く」

 「日本のルールなんか守る必要ないんだ」

 ■万引発覚→奇行の末に…

 野地容疑者の奇行が目立ち始めたのは、昨年秋以降という。
 野地容疑者の部屋から深夜たびたび、「出て行け」「開けろ」などの叫び声が聞こえるようになった。
 野地容疑者は昨年11月、市内のスーパーで約2000円分のコンタクトレンズ関連商品を万引し、現行犯逮捕された。このことが奇行に関係しているともみられている。

 「いつも充血した目をしていて、何をするか分からない怖さがあった」

 マンション住民はこう証言する。
 昨年暮れには、住民の一人が野地容疑者の奇異な言動について福岡県警に通報。警察官が駆けつける騒ぎとなった。しかし、警察官がインターフォンを押しても野地容疑者はドアを開けず、接触できなかった。
 「第1の凶行」直前の今年3月には、階下の部屋に突然「うるさい! 静かにしろ」と怒鳴り込んだこともあった。
 「第2の凶行」直前の4月10日前後の朝には、野地容疑者の部屋から「僕じゃないと思う人」と意味不明な言葉を叫ぶ声が聞こえたと証言する住民もいる。
 野地容疑者には最近、ほとんど収入がなく、消費者金融には約50万円の借金があったという。
 携帯電話は料金滞納のため止められていた。
 家族とも離れ、仕事もうまくいかず、生活費にも事欠くようになり、次第に孤立感を深めていった姿が浮かび上がる。
 17日午前10時ごろ、野地容疑者が福岡地検に向かうため、早良署の裏口に姿を見せた。半袖シャツとジャージー姿。待ちかまえていた報道陣をにらみつけ、そして一瞬笑った。
 犯罪心理学者で聖学院大客員教授の作田明氏はこう分析する。
 「今回の犯行は計画性がなく、攻撃的な感情が積もり積もって爆発したケース。瞬間的なムラムラとした、むしゃくしゃした気持ちの赴くままに殺害していると考えられる。殺す相手は誰でもよかった。何度も刺すという行為は、自分が痛めつけられてきた社会に対する恨みがこもっているのではないか」

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最終更新:5月6日12時33分

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