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コミックガイド

スパイスビーム [作]深谷陽

[掲載]2008年03月30日
[評者]山脇麻生

 根が食いしん坊ということもあり、料理が旨(うま)そうな作品を読むと、すぐに同じものを食べたくなる。もちろん、『スパイスビーム』の料理にも思いっきり感化された。こんな店、近くにあったら、絶対ハマるな。

 物語は、冴(さ)えない男・コージがタイ料理屋「チャーン」に飛び込むところから始まる。ブリキの皿にごてっと盛られた料理はゆらゆらと湯気を立て、それをスタイル抜群のウエートレスがテーブルの上にドカンと置く。濃密な線が紡ぎだす温度と湿度に垂涎(すいぜん)、読者は主人公の最初の反応を見守ることになる。「食欲ないんだけど」と、おそるおそる一匙(さじ)口に入れるコージだが、瞬間、複雑に絡み合ったスパイスが脳を痺(しび)れさせ、煩わしい悩みもすべて消しとんでしまう。思わず浮かべる至福の表情も自然で、まだ知らぬ料理の旨(うま)さがいかほどのものか、こちらにも伝わってくる。

 これをきっかけに、見た目はゴツいが腕はサイコーのシェフと、明るい色気を振りまくポーラと働き出したコージは、ここに集う人々のドラマに触れることになる。

 帰らぬ母を待つ幼い子どもを安堵(あんど)させ、逃亡犯の荒れた感情を静めるホットな料理。そんな人情ドラマの進行中、明らかに食事が目的ではないヤバめな連中が度々現れ、物語をタイ料理のように味わい深いものにしている。ちなみに本作は『スパイシー・カフェガール』(宙出版)の姉妹作。そちらもぜひ。

    ◇

 「漫画ゴラク・ネクスター」掲載作品を収録。

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