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日本 教育 NA
留学生100万人計画の画餅
2007/04/24

 4月18日の日経新聞夕刊に「日本への留学生2025年に100万人」という記事が出ました。私はその数に驚き、何度も記事を読み直しました。教育再生会議が目標として掲げた数字であり、5月の第2次報告に盛り込む方向で検討しているということです。毎日新聞では、その根拠として「留学生10万人計画」は達成できたものの、アメリカの57万人、イギリスの34万人に遠く及ばないという事実を挙げています。

 1983年に当時の中曽根首相が言い出した「留学生10万人計画」は、紆余曲折を経て2003年にようやく達成することができました。横ばい状態が続き、1999年には5万5000人程度だったのですが、何とか2003年に10万人を突破することができたのです。だからといって、その勢いで留学生数増加が続いているわけではありません。また急な増加によってさまざまな問題が生じ、入管でも留学生・就学生の入国審査を厳しくしたり、緩めたり、苦慮しているのが現状です。

 どう考えても現在の12万人を18年間で88万人増やして100万人にするというのは、非現実的なことに思えてしかたがありません。なぜ単純にアメリカやイギリスと比べ、「わが国は留学生数が極端に少ない」という結論を下してしまうのでしょうか。

 そういえば、「留学生10万人」も欧米諸国との比較から生まれた数字でした。1982年の留学生受入れは8,116人でしたが、これでは先進国としてあまりに少ないと当時の首相中曽根は考えました。こうして、アメリカの32万人には遠く及ばないにしても、せめて12万人だったフランス並みの水準に引き上げようという計画が始まったのです。

 さらに、教育再生会議が出した「留学生が日本の大学で学びやすくするための検討課題」についても疑問を感じずには居られません。各大学に英語による授業の実施や留学生宿舎の整備が挙げられています。英語での授業を増やすことが留学生誘致に役立つというのは、英語圏からの留学生が殆どであるという認識からなのでしょうか。それとも、英語は国際語ゆえ、英語で授業をすれば良いという考えからでしょうか。

 留学生の出身国・地域は記事末表の通りです。アジアがほとんどを占める中で、「日本語習得がネックになっている。国際語である英語での授業を増やせば留学生数が増える」という考え方はあまりにも短絡的過ぎるのではないでしょうか。日本語を学び、日本語を通して日本を知ってもらうことは、日本理解者を増やし、将来日本との架け橋となる人材を育てることになるのです。入国管理局の報告書でも「留学生は未来からの大使」という表現が使われています。

 もちろん国際語である英語によるコミュニケーションによっても、日本理解者を増やすことはできます。また英語での授業の整備も必要ですが、いかにして留学生の日本語教育の充実を図るかという視点の重要性も忘れてはなりません。言葉を理解することは、その国を理解し、そこで生活する人々、物の考え方、すなわちその国の文化を理解することになります。その視点が今回の教育再生会議では欠けていると思います。

 やや専門的な話になりますが、「複数の日本語能力試験の統一」という提言にも賛成しかねます。実は長い間総合的な日本語能力を問う「日本語能力試験」が大学入試に援用されていましたが、2002年にやっと留学生のための「日本留学試験」ができました。その5年後、再度試験の一本化が検討課題として挙げられるというのは、あまりにも節操がないように思います。毎日新聞には「日本貿易振興機構など複数の機関が行う外国人への日本語検定の一元化」という記述がありますが、ジェトロ試験と留学生に課せられる試験とは内容が異なります。どこまで留学生・就学生事情をご存知なのだろうかと耳を疑いました。

 一歩下がって日本社会を見つめてみてください。果たして留学生が住みやすい社会と言えるでしょうか? 開かれた社会と言えるでしょうか? 今の日本社会の状態を考えた上で、20年後の適切な留学生数を弾き出す必要があると考えます。無理な留学生数の増加は、学ぶ意欲のない留学生を大量に生み出すことにもつながり、不必要な軋轢が生じるタネになる恐れがあります。

 有識者によって構成される教育再生委員会からの、あまりにも現場感覚のない会議報告に長年留学生教育に携わる一人としてむなしさを感じました。どうぞもっと留学生の姿、留学生教育の実態を見つめていただきたいと思います。

 留学生の現場を見つめ、現場教師とともに考えることから、意義ある留学生計画が生まれていくのではないでしょうか。そして、留学生誘致を考える前に、もう一度日本の大学の実態にも目を向けてみませんか。

○日本の大学の姿は、果たして魅力あるものでしょうか?
○大きな犠牲を強いてでも来たくなるような大学なのでしょうか?

「2006度日本語教育機関実態調査」結果報告
日本語教育振興協会

2006年7月1日現在 国・地域別学生数
合計30,607人  中国+韓国+台湾=83.8%

1.中国16,067人   2.韓国8,060人
3.台湾1,518人   4.ベトナム876人
5.スリランカ641人   6.スリランカ641人
7.ネパール599人   8.バングラデシュ482人
9.タイ477人   10.インドネシア291人
11.ミャンマー246人   12.その他1,350人

関連情報:留学生数の推移(文部科学省ホームページ)


(嶋田和子)

写真はイメージです

















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[27851] 事実は事実であること
名前:Liuwenhai
日時:2007/05/10 12:34
私は一人の留学生です。
当初の10万人留学生計画の結果としてはなんでしょうか?確かに、数だけ見れば10万人超えました。けど、数だけではないでしょう、数より質です。中国では「留学ゴミ」という新しい単語があります。私も日本語学校で勉強したことはあります。正直に言えば日本語学校の学生の90%は留学ゴミだと思います。
うちのお袋と冗談でもし留学したいなら、僕がお金を出して日本の大学に入学させてもいいと冗談で言いました。日本でお金さえあれば誰でも入れるいわゆるダイガクが多すぎです。あのようなダイガクから出てきた学生は本当に大学生とは言えるでしょうか?自己満足しかならないでしょう??

「ただ、100万人の留学生を日本に、という姿勢は決して間違いではないと思います。少子化時代に不可欠の政策だと思います。」
今の時代はもう全員大学進学の時代ですけど、少子化時代に不可欠の政策は留学生を招くことではなく、日本のゴミ大学をドンドン減らして、お金をもっといいところに集中させて、もっといい研究をやって、もっといい研究結果を出せるような環境つくりだと思います。

ここで名前を挙げた大分県の立命館アジア太平洋大学は私個人にとってお金をくれても入りたくない大学です。この大学は約5000人の学生のうち、2220人が留学生です(2006年11月)ーーこれは誇りではなく、恥だと思うべきです。私個人の経験でこの2220人のなかで本当な人材は指をおりって数えるぐらいしかないでしょう。

当初の10万人留学生計画のもう一つの結果としては在日外国人の犯罪率はうなぎのぼりになってしまったことです。山形のどかのダイガクの中国留学生集団東京に逃げたことをニュースで見たでしょう。在日中国人犯罪は大きな問題になってるでしょう??考えてみてください。犯罪者の多くは若者であり、密入国者ではないでしょう、正々堂々に留学ビザを持って日本にやってきたいわゆる「人材」でしょう???どんなに皮肉なことでしょうか??これは全部10万人留学生計画というまったく現実に基づいてない日本人の自己満足ための計画のせいだと思います。在日外国人犯罪問題もある面からみれば、日本人自業自得しかいえないことです。まったく教訓にならずに、また麻薬を吸いすぎしたような計画「100万人留学生計画」を出している、また立命館アジア太平洋大学のようなゴミ捨て場のようなダイガクを例にして自己満足している人がいるのは、いったいみんななにを考えてますか???問題の本質を見てますか??

私が理系な人です、書くものに苦手で、失礼なところまた大目にみてください。
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[27239] 立命館アジア太平洋大学の成功に学ぶべき
名前:末光健志
日時:2007/04/25 07:24
内容の深い、示唆に富む記事だと思います。

ただ、100万人の留学生を日本に、という姿勢は決して間違いではないと思います。
少子化時代に不可欠の政策だと思います。

それは、大学関係者を路頭に迷わせないためだけではなく、正面切っては外国人労働者を受け入れることのできない日本にとって、100万人のうち半分でも日本で就職してもらえれば、彼らが経済に大きく貢献してくれるからです。

卒業した留学生の就職が上手くいくのか、という問題もあるかと思いますが、大分県の立命館アジア太平洋大学のように、常に企業(顧客)と大学に抱える人材(学生)に関する情報交換を行い、マッチングを行っていけば、留学生でも高い就職率が得られるようです。この大学は約5000人の学生のうち、2220人が留学生です(2006年11月)が、卒業生の就職率は100%に近いという話しをNHKの番組でも見ました。

在学中の学生も、アルバイトなどで労働力としても地元経済を支えていますし、今後、地方の大学は特に、この立命館アジア太平洋大学の成功に学ぶべきだと考えます。
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