米国初の黒人大統領を目指すバラク・オバマ上院議員(46)がリードしてきた民主党の指名争いに「変調」が表れている。同氏と関係の深い牧師が白人敵視とも受け取れる発言を繰り返したことなどで、同氏の支持率は急降下。ヒラリー・クリントン上院議員(60)が勢いに乗る。6日のインディアナ、ノースカロライナ両州予備選前に、今後の展開を左右する激戦州インディアナで両氏を追った。【米インディアナ州インディアナポリスで及川正也、大治朋子】
「ジョブズ(仕事)、ジョブズ、ジョブズ」。3日夜、クリントン氏は州都インディアナポリス中心部で野外イベントを開き、予備選のキーワードを連呼して雇用対策の重要性を強調。オバマ氏への支持が強いとされる都市部だが、この日は3000人近くが集まり、熱烈な「ヒラリー・コール」を送った。
ブッシュ政権下で製造業だけで4万5000人が失職したとされる同州。クリントン氏は「この夏、連邦ガソリン税を凍結し、石油会社に負担させる」と各地で演説。ガソリン価格高騰に悩む有権者を取り込む戦略だ。
会場に来ていたドリスさん(44)は「オバマ氏より経済対策が具体的で分かりやすい」とクリントン氏への投票を決めた。ドリスさんは先月、経営する自動車販売会社が倒産、現在失業中だ。
白人が8割以上を占め、失業率の高いインディアナ州はクリントン氏の地盤。各種世論調査でリードしていたクリントン氏はいったんオバマ氏に逆転されたものの、先月末に抜き返した。黒人層が多く、オバマ氏の牙城とみられたノースカロライナ州でも追い上げており、陣営は「インディアナで勝利し、ノースカロライナでも小差に持ち込めば形勢を逆転できる」と判断、「インディアナ必勝」にかける。
インディアナ・ブルーミントン大のラッセル・ハンソン教授は「80年代以降に斜陽化した鉄鋼業地帯を抱える州北東部や、保守的な南部の白人労働者層を中心に、クリントン氏は幅広い支持を集めている」と指摘する。
「インディアナで勝てば指名を獲得できる」。オバマ氏は3日、インディアナポリス郊外ノーブルズビルでの演説で勝利への意気込みを強調した。陣営は「ノースカロライナとともに2勝すれば指名を確実にできる」と読み、4月22日のペンシルベニア州予備選での敗北後、インディアナ州に重点シフトした。
「ファミリー・ピクニック」と銘打った3日の集会では、大集会で雰囲気を盛り上げる従来のパターンとは異なり、「庶民性」をアピールした。中産層の恒久減税を訴え、クリントン氏の連邦ガソリン税凍結には「1日30セント(30円強)の効果しかなく、小手先の対応」と批判、抜本的な経済改革を主張した。
しかし、こうした演出効果とは裏腹にオバマ氏への逆風はおさまっていない。最大の要因はオバマ氏が信仰上の師と仰いでいたライト牧師の存在。米国外交や白人層を敵視するライト師は4月28日の講演で自説を改めて曲げず、これを境にオバマ氏の支持率は急降下をたどっている。
米ウォールストリート・ジャーナル紙とNBCテレビの世論調査によると、3人に1人がオバマ氏とライト師との関係を「重大な問題」と受け止めている。3日の集会に参加した自動車部品工場を経営する白人のバームバーさん(51)は「白人票を失ったのは確かだ。オバマ氏が勝てるかどうか分からない」と語った。
毎日新聞 2008年5月5日 18時12分