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岡山県

支局長からの手紙:長屋で「木造特区」を考える /岡山

5月5日15時2分配信 毎日新聞


 倉敷市川西町の長屋を訪ねました。写真は玄関を入ってすぐの板の間。細長いテーブルの板は建築現場にあった分厚い「梁(はり)」を3本合わせたものです。足は下水道用のコンクリート材。材料費は数千円ですが、打ち合わせやお茶、ときにはお客が持ち込むお酒をにぎやかに楽しむ場としてフル稼働しています。
 長屋は1級建築士、和田洋子さんが昨年1月から事務所に使っています。築60年から80年の棟割り長屋の一角。「日本古民家研究会」(本部・島根県大田市)の定義では、1945年以前に建てられた戦前の建物を「古民家」といいますから、れっきとした古民家です。和田さんの東京の同業者に「おれの駐車場代より安い」とうらやましがられた賃借料だそうです。
 前置きが長くなりましたが、和田さんは「倉敷を木造特区に」という構想に向け動き始めています。「特区」は小泉内閣が規制緩和策として打ち出しました。地域を元気にするために全国一律の規制とは違う制度を認めよう、それが成功すると全国に波及させることもあるよ、というものです。
 建築の分野では、耐火規定からほぼ100%鉄筋コンクリートや鉄骨造りだった高齢者福祉施設に、秋田杉などの地元産木材を使えるようにした秋田県の「秋田杉特区」の例があります。「木造特区」というのは、伝統的な構法でも木造の住宅を建てやすくする、それによって美観地区だけではなく倉敷全体で木造建築を大事にするというプランです。
 ネックとなるのは、耐震偽装事件を受けた昨年6月の建築基準法改正。「構造計算書を作る手間が膨大になり、確認機関の審査に時間がかかる」として住宅着工が激減したり、公共施設の着工が遅れたことが指摘されますが、伝統的な木の建物も例外ではありません。
 金物を使わず、継ぎ手、仕口(しぐち)などで木と木を組んでつくる建物は、優れた耐震性が実証されつつあります。しかし、現場では木造の中でも特殊な扱いとなり、膨大な手間と、検査に数カ月という時間、構造計算適合性判定に県の場合で16万円以上という費用負担が大きな関門といいます。和田さんは「世界に誇る日本の建築文化が消滅しかねない」と、建築士や大工さんと危機感を募らせています。
 「美観地区は観光資源なのに、同じものを建てられなくなる。60歳以上の大工さんを中心に、まだできる方がいらっしゃるんです」。伝統構法で孫の代(200年先)まで持つ、地震にも強い設計の木造住宅を建てやすくする特区へ向け、和田さんは倉敷の新市長になる伊東香織さんにも既にメールで呼びかけています。【岡山支局長・松倉展人】

5月5日朝刊

最終更新:5月5日15時2分




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