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【連載企画「闘う臨床医」】(3)病院がつぶれる (1/3ページ)
北海道の東端にある根室市へは札幌市からは鉄道で約6時間、最寄りの根室中標津空港からバスで1時間半かかる。北方領土を望む納沙布岬があり、市内にはロシア語の看板も目立つ。
人口約3万人の市で1昨年3月、長期入院患者を受け入れてきた市内唯一の療養型病院「根室隣保院付属病院」(75床)が閉院した。これで市内の介護型療養病床はゼロとなった。
患者とその家族にとってはまさに寝耳に水。57人いた入院患者の多くは車で2時間かかる釧路市や、1時間半かかる中標津町、さらには道外の病院への転院を余儀なくされた。
市内で酪農業に従事する女性(48)の場合、母親(80)が脳梗塞(こうそく)で4年以上入院していた。家族全員で転院先を探し回った末、ようやく札幌市内の病院を見つけ、福祉タクシーで9時間かけて母親を送り届けた。
しかし昨年夏、女性は母親を自宅に引き取った。「札幌までなかなか通えないので、本人が『住み慣れたところがいい』と寂しがったんです」。
自宅での介護が始まり生活は一変した。父親、兄とともに早朝から約70頭の乳牛の世話をする傍ら、食べやすいように細かく砕いた食事を作ったり、おむつの交換、薬を塗ったりと息をつく暇もない。訪問看護やヘルパーも利用しているが、女性は「母も家族に迷惑をかける、と気にしているみたいです。市内に唯一の介護型病床だったので頼りにしてたんですが」とやり切れない思いを口にする。