中国の胡錦濤国家主席が六日から来日する。チベット騒乱や聖火リレー混乱で中国への懸念が高まった。これらの問題でも胡政権が発足当時から掲げてきた「人間本位」の姿勢を示してほしい。
胡主席の来日は中国の国家元首としては十年ぶりの訪問になる。同時にチベット騒乱から各国の聖火リレーで続いた混乱以来、初めての中国トップの外遊でもある。
チベット問題に対する中国の強硬姿勢や、聖火リレーへの抗議活動に中国内外で示された激しい反発は国際社会の注目を集めた。一時、沈静化していた欧米や日本などの中国に対する違和感や警戒心を強めた。
胡政権は二〇〇二年の発足以来、「人間本位」の政治を掲げ内政では格差是正に取り組み、各国との協調外交を目指してきた。
二年前、安倍晋三首相の靖国神社を参拝するともしないとも明言しないという姿勢を受け入れ、首脳相互訪問の再開に踏み切る政治決断をしたのは記憶に新しい。
国際社会が懸念するチベット問題でも、中国が同胞とするチベットの人々のあつい信仰心や苦悩を理解し、尊重すべきだ。胡主席来日の直前、中国は昨年夏以来、中断していたダライ・ラマ十四世特使との対話再開に踏み切った。
胡主席は訪日直前の北京駐在日本人記者団との会見で「ダライ」と呼び捨てしてきた同十四世にチベット語で「上人」を意味する「ラマ」の敬称を付けた。同十四世との和解を求める姿勢を日本で表明するのは不可能だろうか。
チベット問題は中国の内政にとどまらず国際的に関心を集める人権問題であり、北京五輪の成功さえ左右する外交テーマになった。福田康夫首相はひるむことなく隣人として国際社会の懸念を伝え、胡主席の積極的な発言を引き出してほしい。
ギョーザ事件や東シナ海のガス田問題は中国でナショナリズムが高まり、胡主席が日本に譲歩するのは難しいと言われている。
しかし、両国のメンツや主権にかかわる問題で協力が進展すれば、百の外交辞令に増して両国の国民感情を緩和し関係強化に役立つ。合意をあきらめず首脳会談で解決に道筋をつけるべきだ。
胡主席は警備上の理由で日本記者クラブでの共同記者会見には応じない意向という。中国首脳は公開の会見で重要なメッセージを日本国民に発してきた。日本国民ができるだけ多く胡主席の肉声に触れられるよう再考してほしい。
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