一時国有化中の足利銀行が野村グループを受け皿に民間銀行として再出発する。銀行と証券の連携による新たな事業を目指しているが、地域経済の浮揚という地方金融の使命を忘れてはならない。
足利銀行(宇都宮市)が経営破綻(はたん)してから五年、七月に初の証券系地銀として生まれ変わる。グループには野村証券系の投資会社、野村フィナンシャル・パートナーズを中核に企業再生ファンドなども加わった。野村は企業の合併・買収も手掛けながら足利銀を再生させる考えだ。
しかし、地銀は地元経済の活性化が最大の役割であり、中小企業向け取引がその基本であることを見失ってはならない。四月の日銀地域経済報告は北海道を除く全地域の景気判断を引き下げた。原油高による生産鈍化などを背景に景気の牽引(けんいん)役だった企業部門の減速感を色濃くにじませた内容だ。
地銀の多くは収益の約六割を貸し出しに頼っているが、最近は投資信託などの手数料収入にも重点を置き始めた。企業向け融資の伸び悩みによって新たな収益源確保に迫られている。収益改善は当然としても、そこに目を奪われて企業の育成を怠ってはなるまい。
野村は企業の上場支援を数多く手掛け高度な金融機能を蓄積してきた。足利銀の地元、栃木県の経済界はベンチャー企業支援などに期待を寄せている。果敢に挑んでほしい。それは「繁栄する大都市経済」「疲弊する地方経済」という地域間格差を縮め、過剰が続く地銀の再編を促すことにもなる。
九州では福岡銀と熊本ファミリー銀に長崎の親和銀も加わって県境を越えた広域地銀を誕生させた。海外と接点を持つ輸出産業などを育てながら世界経済の需要を地域経済にも取り込む。地銀はそんな役割も求められている。
栃木県は東北自動車道などが走り、北関東と東北を結ぶ交通の要衝だ。地方金融の広域化を図る条件に恵まれている。野村は足利銀を「地域連関の軸」と位置付けて企業育成を経営理念に掲げたが、その実現には重い課題がある。
野村証券はインサイダー取引で三人の逮捕者を出し、顧客離れが広がっている。「野村は大丈夫なのか」。百億円を上限に足利銀への出資準備を進めている栃木の経済界にも不安が走っている。
野村の地銀経営は今回が初めてだ。地元との信頼構築が何より先決だろう。そうしなければ「地方を元気に」の道筋が危うくなる。
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