ニュース: 生活 RSS feed
【主張】後期高齢者医療 首相は制度の意義語れ
■無責任な代替案なき廃止論
75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が4月にスタートして、1カ月余りがたった。保険証の未着や保険料徴収誤りといった当初の事務的な混乱は、時間とともに解決に向かっているが、高齢者の不安や不満は収まる気配はない。
相次ぐミスによって、制度自体の信頼が損なわれたことが大きな要因だ。厚生労働省や制度を運営する広域連合、地方自治体には改めて猛省を促したい。これ以上のミスやトラブルを起こしたら制度は立ちゆかなくなる。
使った医療費が少ない都道府県ほど保険料も安くなるのが新制度の仕組みだ。従来の制度では、医療費を支援する現役世代の負担額がわかりづらく、誰が責任をもって医療費の抑制にあたるのかも明確でなかった。新制度はこれをはっきりさせ、高齢者にも関心を持ってもらおうとしている。
福田康夫首相は強力な信念をもって、この制度の意義と目的を国民に語るべきである。
新制度は複雑だ。一度に説明を聞いてもなかなか理解しきれるものではない。政府や自治体は個別の不安が解消されるまで繰り返し説明を続けることが必要だ。制度をさらに易しく解説した資料や戸別訪問など、きめ細かな対応も求めたい。
≪天引きにメリットある≫
誤解や周知不足による混乱はいまだに見受けられる。例えば保険料の年金天引きだ。対象者1300万人のうち1100万人は、これまでにも国民健康保険(国保)などの保険料を負担してきた。
ところが、これまでの保険料に上乗せして徴収されたと思い込んでいる人が少なくない。「年金天引きで生活が苦しくなった」といった苦情も聞かれる。
年金記録問題が解決しない中での天引きだっただけに、「本来の年金額を払わずに、徴収だけするのは納得いかない」との批判も強い。だが、天引き制度が悪いわけではない。窓口で払う手間が省け、行政コスト削減につながる。徴収漏れもなくなる。天引きをやめても保険料負担がなくなるわけではない。政府は天引きのメリットをもっと説明すべきだろう。
首相は6月中旬までに制度の問題点を集中的に点検し、緊急対策をまとめる考えを表明した。低所得者の減免制度の拡充などを検討するという。対策をまとめるにあたって、厚労省は保険料負担の増減について実態調査を行う。極端な負担増になった人や、生活ができなくなっている人がいないかの把握も必要である。
従来の自治体独自の減免制度から外れたケースでは、保険料が上がった人が多い。こうした人への対応として、広域連合独自の減免策が図れるよう国が財政支援する案も検討されている。ただ、国が支援するとなれば、新制度の理念をゆがめる恐れもある。政府には一時的な勢いで判断を誤ることがないよう重ねて求めたい。
≪高齢者も応分の負担を≫
制度運営上の課題もある。外来から入院まで一貫して治療にかかわる「かかりつけ主治医」も、一部の地方医師会の反対もあって申請する医療機関はいまだに少ない。政府は、医療機関への協力要請を含め、改善点は6月を待つまでもなく対応してもらいたい。
政府は、新制度の意義や目的の説明を怠ってきたことを反省すべきである。首相は先月末の記者会見で「制度の骨格、考え方は必ずしも悪いわけではない」と語った。政府のトップがこのような自信のない説明をしていたのでは、国民の理解は得られまい。
少子高齢化で高齢者の医療費はさらなる伸びが予想される。子や孫の世代にツケを回してはならない。高齢者にも応分の負担を求めることは当然のことである。
これまで高齢者の大半は市町村が運営する国保に加入してきたが、高齢者の多い市町村では国保財政は破綻(はたん)の危機にあった。新制度は運営を都道府県に広げ、保険財政を安定させるのが狙いだ。
民主党などが主張するように新制度を廃止したところで、医療費の増加分は誰かが負担をしなければならない。具体的な代替案も示さずに、廃止を叫ぶだけでは無責任といえよう。
新制度は始まったばかりだ。いま大きな見直しを行えば新たな混乱を招く。首相は医療費を取り巻く財政の実情もしっかりと説明してほしい。