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社説:食料危機 米国が問題を増幅させている

 食品価格の値上げが相次いでいる。所得が伸びない中で、食費の負担が増しており、家計を取り巻く環境は厳しくなっている。

 値上げは世界的な現象で、その要因のひとつがバイオエタノールだ。自動車の燃料として脚光を浴び、原料のトウモロコシ増産のため小麦や大豆などの作付けが減っている。また、中国やインドなどの新興国で穀物消費が急増し、干ばつでオーストラリアなどが不作に見舞われている。

 こうした要因に加え、価格上昇を加速させているのが、投機資金の流入だ。

 米国の住宅バブル崩壊の結果、世界の金融市場は信用リスクに対し過敏になっている。その結果、本来なら社債などに向かうべき資金が穀物市場にも大量に流れ込んでいる。

 当然売り惜しみも発生する。国内の安定供給のため、コメなどの輸出を規制する国が目立つようになった。食料を求めた暴動も、あちこちで起こっている。国連も食料サミットの開催を提唱し、食料援助の増額を求めている。

 資源獲得競争が、食料という人の生存に直接つながる分野に広がってきた。市場の動きだからといって看過していい問題ではない。

 農産物の貿易の仕組みは、これまでの世界的な過剰を背景に、自由化を主眼に構築されてきた。

 世界最大の食料純輸入国の日本としては、安易な輸出制限ができないように貿易ルールの改定を求めるのは当然のことだ。輸出国側もこうした求めに、真摯(しんし)に応えるべきだ。

 一方、日本では、コメの減反が強化されている。コメの内外価格差は大幅に縮小したとはいえ、まだまだ差は大きい。国内の生産量より消費量が少ない現状では、減反もやむなしということのようだ。

 休耕地も含め国内の農地を活用できるよう、農業への参入障壁を下げるべきだし、小麦粉の代わりに米粉を使うなど、国内産米の需要拡大を図るべきだ。

 食料不足への対応策は国によってさまざまだが、消費を抑制しろとは言えないし、天候変動に伴う不作も、すぐに対応できる問題ではない。

 一方、穀物を燃料にするバイオエタノールと、穀物市場への投機資金の流入は、エネルギー政策や、金融市場の混乱から派生的に生じた現象でもある。

 バイオエタノールは、ワラや廃材など食料とならないものを原料とすべきだし、投機資金の流入も、金融市場を安定させるための超金融緩和が引き起こしている現象と言えなくもない。

 いずれも、主たる震源は米国にある。バイオエタノールへの生産優遇措置を見直すべきだし、金融市場の混乱を早期に終息させ、日本も含めて各国が協調し、商品投機を抑えるような環境を形成すべきだ。

毎日新聞 2008年5月6日 東京朝刊

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